2002/11の湾岸署
[2002年11月06日(木)]
「うーっ」
青島は肩をすくめるとコートの襟を引っ張った。
「寒いっすねぇ」
電柱の陰になっているのでなおさらである。
「冬は寒いもんだろうよ」
と答えたのは和久。両手で缶コーヒーを握っている。
「おめぇは冬の方がずっと元気そうだな」
そういうと青島の全身を見た。
「そのヨレヨレのコートどうにかなんねぇのかって署長に言われたぞ」
「は?署長に?」
「指導員ならなんとか言ってくれっていうから言ったぞ。間違いなく言ったぞ。はい終わり」
「なんすかそりゃ」
そう言うと青島はタバコをくわえて火を付けた。
「おめぇそのタバコはどうにかなんねぇのか」
「それも署長に言われたんすか」
と煙を吐いた。
「違うよ。毎度煙たくてよ」
そう言いながら煙をパタパタと扇ぎ飛ばす和久。
次の瞬間、青島のタバコの先が上下した。
「和久さん、あれ」
二人が張っていた被疑者の男がアパートから出てくるのを見つけた。
「よし、いこうか」
ゆっくり陰から出る二人。
被疑者の男は二三回キョロキョロすると青島と目が合った。
ニッコリ笑う青島。
男はやや眉をひそめたあと何かを悟ったように「うっ」と唸り、二人と逆方向に逃げ出した。
「待てこらっ!」
青島はコートを翻してそれを追う。
その青島の口からタバコがこぼれて和久の足下にぽとりと落ちた。
和久はそれを拾い上げると、
「まったく。千代田区なら二千円だぞ」
とつぶやき、その吸い殻をコーヒーの空き缶に突っ込んだのだった。