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2001/09の湾岸署

[2001年09月14日(金)]

青島がいつものように出勤してきた。
立ち番の森下と挨拶を交わす。
「おはようございます」
「おはよう」
その横の柱をトントンと叩く青島。
「大丈夫だったのかな?」
と訊く。
「えぇ、多分」
と一緒に柱を見上げる森下。
その横を、自分で肩をトントン叩きながら出てくるすみれ。
「お疲れぇ」
青島が声を掛ける。
「あ、青島君おはよー」
と返すすみれは眠そうである。
「あ、すみれさん夜勤だったよね。大丈夫だった?」
「何が?」
「地震」
あぁ、と思い出したようにすみれ。
「そういえばニュースでそんなこと言ってたような気も・・・」
「気付かなかったの?寝てた?」
と青島。
「ううん、起きてた。多分ラーメン食べてた」
「じゃあ気付きそうじゃない」
「テレビの体操しながら食べてたから、揺れたのに気付かなかったのね。じゃ、お疲れぇ」
と言って、すみれはヨタヨタと帰っていった。
「ラーメン食べながら体操・・・?」
目を見合わせる青島と森下。

[2001年09月14日(金)]

「ここんとこ天気悪いすね」
「台風以来、よくねーな」
空を見上げる青島と和久は横断歩道で信号待ちをしている。
「アメリカじゃテロだっていうし」
「世の中ザワザワしてるよな」
「なんだか気分が落ち着かないっすね」
とタバコを吹かす青島。
「おめぇが落ち着いてるとこなんざ見たことねぇよ」
と和久。
「あ、それ言い過ぎ。オレだって」
とタバコをくるくる回す。
「オレだってなんだよ」
「オレだって始末書書く時は落ち着いてますよ」
と笑う。
「何言ってんだ。食堂のテーブル壊して始末書書いて落ち着いてる何もあったもんじゃねぇよ」
と渋い顔の和久。
「あぁ、こうなんつーか、パッと明るくなるような幸せなこと、ないっすかねぇ」
「んなもんねぇよ」
と和久が言ったところで、信号が変わる。
二三歩歩き出したところで、青島の足下にボールが転がってきた。
「すいませーん」
と小さな姉弟が向こうの公園から叫ぶ。
青島はボールを拾い上げると勢いよく公園に投げ込んだ。
「道路は危ないから気を付けろよ!」
と青島が言い終わった頃、ボールが姉弟に届いた。
「おにぃちゃん、ありがとう!」
と姉弟が叫んで、また遊びに戻っていった。
振り返る青島は満面の笑みである。
「今の聞きました?」
「あん?」
訝しげな和久。
「お兄ちゃんですって」
パッと明るくなる青島。
「オレもまだイケんだなぁ」
と言いながら青島は歩を進めていった。
「おめぇの幸せは、安上がりだな」
と呟いた和久の言葉は、青島の耳には届かなかった。

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