2005/5の湾岸署
[2005年5月24日(火)]
現場帰りで歩いていた青島が、前方に何かを見つけた。
「あ、和久さん!」
釣り竿を背負って歩いている和久であった。
「よっ。どうした」
「仕事ですよ。そっちはいいっすねぇ、また昼間っから釣りっすか」
二人はちょうど空いたベンチに腰を掛けた。
「終わって帰るとこだよ」
クーラーボックスを開けて見せた。数匹の魚がいて、うち一匹は入れたてらしくまだピチピチと跳ねていた。
「吉田に勝ったぜ」
そう得意気に言い蓋を閉める。
「おめぇこんなとこでアブラ売ってていいのか?また課長に見つかって怒られんぞ」
とニヤつきながら訊く和久に青島は
「課長、今日はまたゴルフでいないんすよ。副総監の接待」
と答え、タバコに火を付けた。
「変わんねぇなぁ」
と和久。
「元副総監はお元気っすか。昔オレ運転手やったことあんすよね」
「お元気お元気。今日は俺に一匹負けて、今頃は背中丸くして帰ってるころだがな」
そう笑いながら、青島のタバコの煙を手であおいだ。
「和久さん、もう腰いいんでしょ?」
青島はそう言って和久の背のところをポンポン叩く。
「おっ、指導員やめてからずっと調子いいんだよ」
背筋を伸ばして見せる和久。
「じゃあまた指導員に復帰してくださいよ。手足りてなくて、すみれさんなんて毎日『栄養が足りない』って言いながらオレにたかってくるんすから」
「なーに言ってんだ。昼間に釣り人Aの相手しながらタバコ吸ってる刑事がいる間は大丈夫だよ。その分働け」
「疲れるほど働くなって、和久さんいつも言ってたじゃないすか」
「こんな時だけオレの言うこと聞いてんじゃねぇよ」
笑う二人。
そこにどこからか
「キャー!泥棒!誰か!」
と女性の悲鳴が聞こえてきた。
思わず立ち上がる青島。隣を見ると和久も同様に立ち上がっている。
「釣り人Aじゃなかったんすか」
と青島。
「後ろに『元敏腕刑事』って書かれてんのが見えねぇか」
その和久の返事を待つ間もなく、青島は飛び出して行った。
和久は釣り竿を肩に担ぎ、青島の走って行った方向にゆっくりと歩いていくのだった。