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2002/04の湾岸署

[2002年04月25日(木)]

汗だくになって作業員達が作業している横を過ぎる青島と和久。
「青少年はああでないとな」
「何がです?」
とタバコを吸おうとしたが和久に話しかけられそのままタバコを戻す青島。
「ほら、汗水流して一生懸命働くんだよ。そして夢を実現するんだ」
と言う和久だったが、青島が何も言えずにいると
「なんてな」
と笑った。
「俺だって人一倍仕事してますよ」
と青島。
「人一倍じゃだめだよ。人の一倍じゃ人並みってことじゃねーか」
と和久。
「何屁理屈言ってんすか。それに和久さん『疲れるほど働くな』っていつも言ってるじゃないすか」
「疲れるのと一生懸命とは違うんだよ。これがわかんねーなんてまだまだ子供だな青島も」
「なんなんすか、もう」
ふくれる青島と笑い続ける和久なのであった。

[2002年04月24日(水)]

「はいはい、連れてきましたよ。トイレに隠れてました」
真下が魚住を連れて休憩室に入ってきた。
「僕は勘弁してもらえないかなぁ・・」
と魚住は小さくなっている。
待っていた青島達は一同不機嫌そうな顔をした。
「俺だってイヤっすよ。でも仕方ないっしょ?」
青島がそういって廊下へ顔を出すと、刑事課の前で暴力犯係の刑事に囲まれた人相の悪い男達がたむろしているのが見えた。
「何もあんなに一度にダフ屋捕まえなくてもいいのに」
とすみれ。
「逃がすわけにもいかないでしょ?」
と武。
「ほらほら、みんなで誰を取り調べるかジャンケンしますよ」
と真下が手を叩いた。
「ジャンケン・・・」
雪乃が批判の色を込めて呟いたがその論議は既に終わっていた。
「ジャーンケン」
真下が音頭を取る。
「ほい!」
グーの魚住以外は全員パーである。
「あ・・・・」
再度青島が廊下に顔を出すと人一倍体格のいい男が暴力犯と格闘しているのが目に入った。
「あれだけは俺も勘弁だな」
と振り返ると、魚住は既に半べそ状態。

[2002年04月23日(火)]

全員でモニターを見上げている。
「なによ、これー」
と圭子達は口々に文句を言う。
「警察も検察もどんどん信用無くなるねぇ」
と腰に手を当てて呟く魚住。
テレビではどこかの検察の公安部長が逮捕というニュースが流れている。
街頭でインタヴューを受ける人が「もう何も信用できないっすね」等と答えている。
「ほらねぇ」
と指さし真下に言う魚住。
「なんで魚住さんが自慢気に言うんですか」
と真下。
その後ろで
「いいなー」
と呑気な声。
皆が振り返ると、タバコ片手に椅子にもたれている青島である。
「俺もこういう悪の親玉みたいなヤツ、捕まえたいっすよ」
隣で出かける支度をしている和久。
「聞いてなかったのか。捕まえたのは特捜だってよ」
そう言って鞄を閉じた。
「差別っすよ。所轄のオレたちだってねぇ・・」
青島の愚痴が始まった頃には皆四散していた。
「ほら、行くぞ」
と和久が呼ぶ。
「は?」
「悪の親玉捕まえに行くんだろ?」
「おおっ」
飛び出す青島。
「今回の親玉は自販機荒らしだってよ」
と和久。
「はぁ?」
脱力する青島。
「『事件に大きいも小さいもない』じゃねーのか」
と和久に茶化され、未練たらしくテレビモニターを睨む青島であった。

[2002年04月22日(月)]

「・・・と言うわけなので各員充分に注意するように」
そう神田が締めて朝礼が終わった。
「今日もよかったろ、秋山くん。重みがあるように喋ってみたよ」
「ですね。さすが署長」
等と言いながら神田と秋山は自室へ帰っていった。
「拳銃ねぇ」
と青島。
「要するにむやみやたらと被疑者に拳銃向けるなってことよ」
とすみれ。
「こないだから増えてますからねぇ。被疑者を撃ち殺しちゃうの」
と真下は新聞を読んでいる。
「さすがの俺だって丸腰に拳銃向けたりはしないよ」
と青島はタバコを薫らせている。
「先輩が刑事になったの正解ですよ。警官やってたらそこら中で撃ってそうだもん」
「お前ねぇ。俺をどんな人間だと思ってるんだよ」
と青島はタバコを振り回したが、
「趣味がモデルガンで鉄砲大好き。いつも撃ちたいタイプ」
とすみれ。
「どんなタイプだそりゃ」
と笑う青島であった。

[2002年04月20日(土)](投稿:ねびゅら氏)

朝日が照らす湾岸署は、今日も気温が高くなりそうなことを告げていた。
出勤してきた真下は、空を見上げて肩をすくめた。
「お、真下。おはよう」
少し遅れてやってきた青島が声をかけた。
「先輩〜、朝っぱらから元気だなぁ」
並んで歩き始めた二人の間に、すみれが割って入った。
「おはよ〜」
不機嫌そうだ。
「おはよ、すみれさん、あれ、なんで入ってくんの?当直じゃなかったっけ?」
振り返ると、すみれの左手首は、色あせたスエットスーツを着た人影につながっている。
「こちらさん、どしたの?」
「コンビニ泥棒。万引きばれて居直っちゃって、店長殴って怪我させた上にナイフちらつかせて立て籠もってお弁当3個とおにぎり4個がつがつ食べた」
「あ〜、居直り強盗ですか。すみれさん、それはお疲れさまでした」
真下が気の毒そうに振り返る。
「で、どうやってつかまえたの?」
「あたしの顔見て舐めた態度とるから、ナイフ持った手を取って背負い投げ」
すみれはふくれている。
青島と真下は顔を見合わせた。
青島は連行された男の肩を抱きかかえた。
「君さぁ、このすみれさんて人はね、キャリア警察官とのお見合いの席で、振り袖着たまま回し蹴りして犯人をぶっ倒した人だよ。女だからって見くびるなんて、今時はやんないよ」
「いらっしゃい!」
すみれは青島をにらみつけると、手錠ををぐい、と引っ張って歩き始めた。
乱暴に連行される犯人は、まるでずた袋の固まりのようだった。
「かわいそうに、きっとお腹がすいてただけなんだよね」
青島と真下は、無言で階段を上っていった。

刑事課に二人が入ると、すみれは、早速取調中らしく、席にはいなかった。
そしてそのデスクの上に、「キムチラーメン」がお行儀良く置かれていた。
「先輩、これ、きっとすみれさん食べかけだったんですよ。だから不機嫌だったんじゃないかな」
「そうね」青島はキムチラーメンのふたをそっとはぐってみた。
ふやけてふくれあがった麺の上にフリーズドライのキムチが乗っていた。
青島は、お湯を注がれただけで食べられることなく伸びてしまったキムチラーメンにそっと手を合わせた。
「かわいそうに、きっとお腹がすいていたんだね」
取調室のドアが乱暴に開けられ、すみれが顔を出した。
「青島くん!キムチラーメン、新しいの作って持ってきて!」
「・・・はい」
青島は在庫の入った机の引き出しを開けた。真下は自分の席に座り、窓の外を見てしみじみつぶやいた。
「今日も暖かくなりそうですね〜」
「おい真下、おまえも手伝え」
「え〜?カップラーメン作るのに、何を手伝うことがあるんですか」

[2002年04月02日(火)]

路地裏の電柱の陰に立つ真下。
「あ・・・暑い・・・」
空を見上げた。
「まだ四月・・・だよな・・・」
と言いながらハンカチで汗を拭う。
その瞬間、
「そっち行ったぞ!」
青島の声が路地に響いた。
真下からはまだ姿は見えない。
慌ただしく走る二つ足音。一つは少し遅れて聞こえる。それが青島であるらしい。
「先輩、俺に任せれば大丈夫って言ってたのに・・」
ブツブツ言いながらポケットにハンカチを突っ込む。
足音が近くなる。
「よしっ」
と小さく震えながらも気合いを入れた真下は、路地に飛び出した。
その瞬間ポケットからハンカチが落ちた。
「もうっ」
とハンカチを拾おうと腰をかがめた瞬間、路地に男が飛び出して来た。
「うわっ」
男と真下がぶつかる。
ちょうど真下にタックルされた形になった男は、腹を押さえながら道路に転がった。
その後ろから青島が追いつく。
「おー、真下もやるじゃないかぁ!」
と喜んでいる。
当の本人は、自分も反動で地面に転がり更に電柱に頭をぶつけていた。
「いてててて・・・」
やっと起きあがった真下は、右手でスーツのホコリを払いながら左手は頭のコブを撫でている。
「被疑者捕まえた割には無様だな」
と笑う青島。
「いいんですよ。形なんてどうでも」
と誇らしげに胸を張る真下の手には、しっかりハンカチが握られているのだった。

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