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2001/05の湾岸署

[2001年05月30日(水)]

「うわぁ」
タクシーを降りた青島と和久が雨をよけながら署の屋根の下にたどり着いた。
「びしょ濡れだぁ」
青島は自分のスーツを手で払うが、かなりの量がすでに染みこんでいる。
和久は涼しげに帽子で軽くスーツを払っている。
「和久さん、全然濡れてないすね。のんびり来てたのに」
と青島。
「おめぇみてぇにチョコマカしてりゃ誰だって濡れるさ」
と和久は笑う。
「あ、さてはその帽子に秘密があるんすね」
と睨む青島。
「なにもねーよ」
と和久。
「撥水性に富んでるとか」
「普通の帽子だっての」
「つばが伸びるとか」
「何馬鹿なこと言ってんだ、ほら仕事だ仕事」
と笑った後、二人は仲良く刑事課に戻るのだった。

[2001年05月29日(火)]

「先輩、こんな趣味あったんですか」
と真下。
青島の机上の灰皿にピンク色の小さな芳香剤の粒が敷き詰められている。
「可愛いだろ。いい匂いもするしさ」
と返す青島の後ろですみれが言う。
「何言ってんのよ。たばこ臭いから私が車から持ってきて入れていれてやったの、これ」
と芳香剤の入った大きなプラスティックビンを見せる。
「お陰でタバコの量入らなくなるしさぁ、灰も捨てにくいし、面倒なんだよね」
と笑う青島。
「結局いやなんですね」
と真下。
「そ」
とタバコをくわえる青島に
「そんなに面倒ならいっそのことやめちゃえばいいのよっ」
と、すみれは微笑むのだった。

[2001年05月22日(火)]

「またコート着てんの?」
ちょうど出てきたすみれと外から帰ってきた青島。
青島は屋根の下に入ると
「ふぅっ」
と言いながらコートを脱ぎ、バサッと一度大きく振り水気を切った。
外は大粒の雨が降っている。
「雨降ってたし傘忘れちゃったから仕方なくコート出したんだよ」
と青島は濡れた前髪を掻き上げる。
「傘なんて傘立てにいっぱい余ってたじゃない。ロッカーからわざわざ引っ張り出すなら傘借りればよかったのに」
とすみれ。
「いやだよ。せっかくコートが着られるチャンスなのにさ」
「何よ、やっぱり着たかったんじゃない」
「たまには、ね」
笑う二人。
「じゃいってきまーす」
「いってらっしゃいっ」
すみれがピンクの傘を差して出かけるのを、青島はコートを叩きながら見送るのだった。

[2001年05月21日(月)]

青島と和久と真下が残していたエビフライのしっぽを
「ちょうだい」
と言いながらパクパク食べていくすみれ。
「好きなんだ」
と言う青島に
「カルシウム補給よ」
と応えるすみれ。
「だったらもっと温厚になればいいのに」
と笑う青島の後頭部を弁当のふたでパコンと叩くすみれ。
「どういう意味よ、それ」
「そういう意味だよ」
と弁当のふたを指さす青島であった。

[2001年05月20日(日)]

圭子と妙子が合コンをしようと相手を捜している。
それと目立つように真下がウロチョロするが、無視され続けるのだった。

[2001年05月19日(土)]

「俺、五月病みたいなんすよ」
と青島がタバコを斜めにくわえて和久に言う。
「お、どうした。さっきまで元気に走り回ってたじゃねぇか」
と和久。
「いや、現場にいるときはなんともないんすけど、署に戻ると途端にやる気が・・」
と青島の視線は机の上の書類の山を指した。
「そりゃおめぇが勝手に暴れて書類を増やしてんのと職務怠慢の合わせ技の結果じゃねぇか」
和久は笑って
「それが五月病ならおめぇは年中五月病だな」
と青島の肩を叩いた。

[2001年05月18日(金)]

魚住が新しい指輪を嬉しそうに眺めている。
すみれが尋ねると
「誕生日に貰ったんだよ」
と返事。
少し羨ましそうなすみれの横顔を青島は、仕事をしながら、見ていた。

[2001年05月17日(木)]

すみれと雪乃が同行先でバラを貰ってきた。
「花言葉は情熱的な愛よ」
と言いながら一緒に貰ったケーキを頬張っていた。

[2001年05月10日(木)]

「アセロラ、いいらしいですよ」
と真下が酸っぱそうに健康ドリンクを飲んでいるとちょうど帰ってきた青島も
「これ、身体にいいって」
とアセロラの絵のジュースを買い込んできた。
「お前ら朝のテレビ見たな」
と言う和久に、
「和久さんも見たんですね」
と突っ込むすみれ。

[2001年05月09日(水)]

「えっ!結婚するんですかっ?」
雪乃が声をあげた。
「違うってばぁ」
否定するすみれ。
「ブライダルフェアに行ってきたって話なの」
という言葉は全くフォローにならず、魚住や真下も寄ってきた。
「へぇ、すみれさん彼氏いたんだ」
とあごを撫でている魚住。
「先輩ですか?」
と真下は青島を見たが、手を横に振って否定している。
「あれ・・・誰ですか?」
目を丸くする真下。
「だから違うんだってば」
とすみれ。
「ほら、こないだの日曜日私お休みだったでしょ。友達と一緒に行って来たのよ」
「友達ぃ?」
「なに魚住さんやらしい目で見てるのよ。とも子っていう女の友達っ」
すみれがそう言ったところで、向こうに座る青島はくわえていたタバコにようやく火を付けた。
「彼氏が全然ついてきてくれないから一緒に行こうって誘われたの」
とすみれはそこまで言ってようやくコーヒーに口を付けた。
「どうでした?ウェディングドレスとか試着できたりするんですよね」
と雪乃。
「さすが雪乃さん、詳しいなぁ」
と真下はなにを考えたかニコニコしている。
「うん、着てみたわよ。ピンクの可愛いやつ」
とすみれは嬉しそうに話す。
「ここにフリフリがあったり胸のとこにはバラがついたりしてね・・」
というすみれの横から魚住が口を挟んだ。
「それでどうだった?結婚式したくなった?」
それを聞いてますます嬉しそうな顔をするすみれ。
「うん、出たくなった」
「?」
何だか違う言葉の響きに目を見合わせる三人。
「料理をね、タダで食べさせてもらえたの。今は和洋折衷が流行ってるんですって。ケーキがまた美味しくて・・」
とウットリした目をして話すすみれの周りで、三つのため息が吐き出されるのであった。

[2001年05月07日(月)]

青島が突然振り返った。
「ところですみれさん」
「どこから『ところで』が繋がってんのよ」
憮然と返したすみれは書類書きの手を休めない。
「いや、別に。それより、俺の似顔絵描いてくんない?」
と青島は自分の椅子をゴロゴロ鳴らす。
「は?」
一瞬ちらりと青島を見たすみれだったが、また仕事を続けた。
「すみれさん、巧いじゃない。かっこいいの描いてよ」
とたばこを斜めにくわえている青島。
「はい、これでどう?」
とすみれはメモの切れ端を見せた。
「なんだよこれ」
と青島の見たそれはサルのイラストの殴り書きであった。
「ブラピならかっこよく描くけど青島くんならここまでね」
とすみれは相変わらず仕事を続けている。
「なに、ブラピが好きなの?」
と青島は口を尖らせる。
「特別好きじゃないけどかっこいいでしょ、彼」
「彼・・ねぇ」
「そっくりに描いて欲しかったら悪いことして指名手配でもされちゃって」
とすみれ。
「されちゃってって・・」
「かっこよく描いたらおとなしく出頭するってのならいくらでもかっこよく描いたげるわよ」
「なに、今日は機嫌悪いんだ」
「忙しいの!ゴールデンウィークに空き巣がいっぱい!報告書もいっぱい!もうおなかいっぱい!」
ついに怒り出したすみれ。
「そっか。描いてくれたら何かご馳走したげようと思ってたのにな」
と青島は残念そうに椅子を180度回したが、もう180度をすみれの手が回した。
「そういう大事なことは最初に言ってくれなきゃあ」
とすみれはこれ以上にない満面の笑みで、どこから出したのかスケッチブックまで用意してあるのだった。

[2001年05月06日(日)]

「あっ」
青島がのんびり歩く猫を見つけた。
「今時東京には珍しいっすね」
と隣を歩く和久に言うと、後方から若い主婦が小走りに追いかけてきた。
その猫をよく見るとメザシをくわえている。
「こら、ネコちゃん、まってぇ」
と主婦はハァハァと言ったが、猫の方はひょいと壁を上ってどこかに消えていってしまった。
ため息をつく主婦。
「ノラね。保健所に言って捕まえて貰わなきゃ」
と言いながら戻っていった。
「なんかマンガみたいでしたね」
と青島は笑ったが、和久は
「保健所保健所ってな、ノラネコも住めねぇような街に人間が安心して住めねぇってのよ」
と怒っている。
青島の笑顔も飛んでしばし二人とも黙ってしまったが、そのうち青島が何かを見つけた。
「あ、あっちは大物捕まえたみたいっすよ」
和久も青島が指したマンションのベランダを見た。
片づけ中の鯉のぼりの尻尾をくわえて、猫がぶら下がっている。
「みんな、仲良くやりましょ」
と、青島はニッコリと笑った。
和久もつられてようやく、笑った。

[2001年05月04日(金)]

「なにボーッとしてるの?」
本屋で事情聴取を終えた雪乃が外で待っていた真下に尋ねた。
「いや、世の中はゴールデンウィークなんだなぁって」
と答えた真下の視線の先にはカップルたちが楽しそうに歩いている。
「そうですね。でもあまり天気が良くなくて残念ね」
と歩き出しながら空を見上げる雪乃。
「いいなぁ・・・」
と真下はまだボーッとしている。
「真下さんもどこか遊びに行ったら?」
と雪乃。
「どこか行きましょうか、一緒に」
急に元気になる真下だったが、
「残念でした。私は次の休みは約束してるんです」
と雪乃は手にしていた本の表紙を見せた。
「『ディズニーランドの歩き方』ですか・・」
タイトルを読む真下。
「そ。アメリカの友達が遊びに来るから案内したげるの」
と嬉しそうな雪乃。
「・・・」
真下の顔が曇る。
「どうしたんですか?」
「あの・・その・・」
「なに?」
「いや、その・・」
真下は辿々しく続けた。
「それって・・・男の人?」
それを聞いて笑い出す雪乃。
「やぁね、女の子ですよ」
ホッとした表情の真下だったが、すぐに気を取り直した。
「あ、じゃあその次の休みにでも・・」
と言いかけたが、雪乃に
「あ、ここ次の現場です」
と指し示され、いつものようにかわされるのであった。

[2001年05月03日(木)]

真下がショリショリ音を立てている。
「?」
ちょうど帰ってきた青島と和久がのぞき込んだ。
真下はそれに気付かずまだショリショリやっている。
「角度は十度で両刃だから・・・」
とブツブツ言っている。
「ぼっちゃんは何やってんだ」
と和久が声をかけると真下は驚いた拍子に包丁を二人に向けた。
「!」
思わずのけぞる二人。
「おいっ!」
と青島が声をかけると
「あっ、すいません」
と真下は包丁を後ろ手にまわした。
「なにやってんの」
と青島が再度訊くと
「いや、これ」
と真下は机の上を指さした。砥石である。
「包丁研いでんのか」
と和久。
「えぇ、100円ショップで買ってきたんです、砥石」
と真下は空き箱を見せた。
「説明書の通りにやってるんですけど、これでいいでしょうかねぇ」
「どれ、見せてみな」
と和久が包丁を受け取り、刃をじっと見つめる。
「駄目だこりゃ。ガタガタじゃねぇかよ」
と言うと真下の席に座り、ショリショリと研ぎ始めた。
「慣れた手つきっすねぇ」
と青島。
間もなく和久は振り返った。 「ほれ、見てみろ」
と包丁を差し出す。
「おぉっ、美しい!」
二人は目を丸くした。
「で、真下よ。これ、何に使うんだ?」
と和久。
「今日の午後第一興和銀行で模擬強盗やるんですよ。その道具です」
とニッコリ笑う真下だったが、青島には包丁を奪われ和久からは後頭部を書類で叩かれた。
「模擬強盗の包丁を尖らせてどうすんだ、このばか」

[2001年05月02日(水)]

「ここがこうなって・・・」
真下が青島にパソコンを指導している。
「ほら、こうして・・」
とアイコンをクリックすると、プリンタがガタガタ音を立てた。
青島は出てきた用紙を乱暴に引っ張ると「おおっ!」と感嘆の声を挙げた。
「なになに、どうしたの」
すみれがのぞき込む。
「ほら、見てよ」
と二枚の紙を手渡した。
「こっちがね、普通の始末書。こっちがパソコンから出した始末書」
とそれぞれを指し示す。
「で?」
とすみれ。
「ほら、始末書って名前とかさ書くこと毎回同じじゃない」
と鼻の頭を掻く青島。
「パソコンで出せばさ、いちいち名前書かなくていいし速いでしょ」
とニッコリ笑った。
「さすが真下だね。天才だよ、お前」
と肩を叩くと、真下は得意気な顔をした。
すると袴田は
「始末書の大量生産の用意してどうすんだ。始末書なくす努力をしろ!」
と手にしていた書類を丸めて青島に投げつけた。
「いてっ」
と頭を抱える青島を見て、すみれはクスリと笑うのだった。

[2001年05月01日(火)]

「うるさいなぁ」
怒る青島の横を右翼団体の街宣車が怒鳴りながらゆっくり走っていった。
「メーデーだからなぁ」
和久がボソリと言うが
「連中はいつもうるさいじゃないすか」
と青島。
「うん、まぁな」
和久は笑って返した。
するとまた後方から大きな拡声器音が近づいてきた。
またか、という顔で振り返った青島と和久だったが、直後二人は顔を見合わせると呆れたようにため息をついた。
その横を、猛スピードの車の後ろで「待ちなさーい!」とスピーカーごしに怒鳴る夏美のミニパトが通り過ぎていくのだった。

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