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2000/01の湾岸署

[2000年01月31日(月)]

ピーポー君があまりに汚くなったのでクリーニングに出しておいたのが戻ってきた。
「随分綺麗になったねぇ」
と魚住が感心している。
「こんな色だったんですねぇ」
真下が明るいオレンジを眩しそうに見ている。
「お前のカバンも随分綺麗になったじゃねーか」
とこの間洗濯した青島のカバンを顎で指す和久。
「ここまで綺麗になるなら、オレのカバンもやっぱクリーニング出せばよかったかなぁ」
と青島は残念そう。

[2000年01月29日(土)](By えびりょう)

「お〜、高橋先生。ひさしぶり〜」
「おひさしぶりです、青島さん」
刑事課前の廊下で鉢合わせの二人。
「こんなとこにいるのも珍しいねぇ。なんかあったの?」
「いや別に、たいしたことじゃないんですが・・・」
「あ、そうなの。ほんじゃ、またね」
といって行こうとする青島の腕を掴む高橋。
「あっ青島さん。例の件はどうなってるんですか?」
青島はゆっくり振り返り首を傾げ、
「へ?例の件・・・ってなんだっけ?」
「やっぱり忘れてるんですね。ずーっと前に約束したじゃないですか」
「・・・?」
「すみれさん呼んで合コンしようって」
「あぁ、そんなこともあったっけ?ごめんごめん、すっかり忘れちゃってた・・・ハハ」
「もう、お願いしますよぉ。合コンしてくれるっていうからあの時・・」
「そうだねぇ。じゃ今度必ず・・・あっ!先生!後ろっ」
囁くようにしかし叫んでいる青島と、振り向いて驚く高橋。
「な〜に二人でこそこそ話してたの?」
すみれが二人を睨んでいる。
「いやねぇ、高橋先生がすみれさ・・・」
すかさず青島の口をふさぐ高橋。
「な、なんでもないです・・・へへ」
「なんなのよ、怪しいわねぇ」
「では、わたしは用事があるんでこれで・・・」
と、行こうとする高橋を、今度はすみれが呼び止める。
「あぁ、高橋くん。これ、ありがとう!」
と言って、腕時計を見せる。
「いえいえ、どういたしまして・・・」
「あぁ!?すみれさん。腕時計。どうしたの?」
青島が目を丸くしてたずねる。
「これねぇ、この前の誕生日プレゼントに高橋くんから貰ったの。いいでしょ〜」
「そ、そういう事じゃなくて、おれのあげた時計は?」
「あぁ、あれ。この前、引ったくりの被疑者捕まえたときにベルトが切れちゃって」
「ちょ、ちょっと、大事にしてよねぇ。もうどこにも売ってない貴重なやつなんだから・・」
「いいじゃない、もうわたしの物なんだから」
「・・・」
「じゃ、仕事戻ります。青島さん、お願いしますね」
「はいはい、またねぇ」
「じゃあね、高橋くん」
「はい。ではまた、恩田さん」
ニコニコしながら軽くお辞儀をして戻っていく高橋。
その後ろ姿を見ながら青島がすみれに訊く。
「それにしても・・・なんでキティちゃんの腕時計なんだ?」
「それはやっぱり・・・私に似てキュートだからでしょ」
「・・・」
呆れ顔の青島をおいて、ニコニコして刑事課に入っていく。
「まぁ、ワイルドキャットもいちお猫だもんな・・・」
すみれの後ろ姿に悟られぬよう、呟く青島。

[2000年01月28日(金)]

「おー!寒ィ」
と手をこすり合わせて息を吹きかけながら、青島が帰ってきた。
「今日はほんとに寒いよなぁ」
トントンと腰を叩いている和久。
「痛むでしょ、腰」
「冬はしょうがねーけどな」
「温泉にでも湯治に行ったらどうです?」
真下が後ろから言う。 「温泉かぁ・・いいねぇ。お、青島一緒にどうだ?」
「いやっすよ。なんで男と温泉行かなきゃいけないんですか」
コートを脱ぎながら答える。
「どうせ一緒に行く女の子だっていねーんだろ?」
「そうっすけど、男同士だと余計に淋しくなるんっすよ」
「じゃ、娘も連れていくわ。これならいいだろ」
それを聞いてそそくさと逃げる真下。
逃げ遅れて腕を捕まれた青島は、
「じゃ、今度・・はい・・」
と引きつりながら、適当にお茶を濁したつもりだった・・・。

[2000年01月27日(木)]

「おーよしよしよしよし」
と副署長は仕事もせずに朝からパスタにベッタリ。
「秋山くん、君は署に来てもそいつの相手ばかりしてるねぇ」
「よしよしよし。ほーら」
両手で高くあげられて尻尾を振るパスタ。
「あきやま!」
「はいっ!?」
ビクッと返事する副署長。キャインと鳴いて隅に逃げるパスタ。
「僕もね、こんなこと言いたかないけどね。最近君たるんでるよ。全然仕事になんないじゃないのよ」
「す、すいません」
うつむく副署長。
そこにノックの音。
どうぞ、とも言われないのに入ってきたのは、すみれ。
「あー、副署長怒られてるんですかぁ?」
「恩田君も言ってあげてよ。もう全然仕事になんないんだから」
署長が副署長を指さしながら言う。
「桑野さんが欲しがってましたから、引き取って貰ったらどうですか?」
えっ!?という顔をする副署長。
「あ、そうだねぇ。それがいいねぇ。ちょっと桑野さん呼んできてよ」
「来てます」
と後ろから歩いてきたのは桑野。
パスタが激突せんばかりの勢いで桑野に向かって走っていく。
「いいですよ、預かっても」
桑野の頬を舐めるパスタ。
「じゃ、願いします」
何故か桑野には敬語で話す署長。
持ってきた書類を置いて、パスタを抱いて去っていく桑野。悲しそうに上目遣いの副署長。
「ところで・・」
と、すみれ。
「副署長の仕事って、なに?」

[2000年01月26日(水)](By えびりょう)

「青島くん、外線3番にモグラってのから電話。きみってホント変な友達多いねぇ」
「あ、すいません、係長代理!」
「・・・」
黙り込んでしまう魚住。
「もしもし、お電話かわりました。どう、レストランのほうは?」
「どうも、青島さん。口コミで広まってるらしくて繁盛してますよ・・・。青島さんのおかげだ・・・」
「あぁ、そう。そこのシーフードの料理。メチャメチャうまいからさ、紹介してんだよねぇ」
「ホント、青島さんには感謝してますよ・・・」
「んで、例の『ギャラン・ドゥ』のホストが暴行受けた事件、なにか分かったか?」
「あの店に近くに『ゴールドフィンガー』ってのがあるらしんですが、この前うちに遊びに来た女が、その店のある男の噂してたんですよ。そいつはこんな事を言ってたそうです。『今は、おれがナンバー1ホストだ!』」
「ふ〜ん、わかった。その店あたってみるわ。じゃ、また今度なッ。」
「どうも、青島さん・・・」
電話のフックを手で押して、一瞬後それを放してダイアルする青島。
「おい青島ぁ、モグラはおれの情報屋だろ? なんで使ってんだよ?」
和久が肘でこづく。
受話器を持ったまま青島、
「いいじゃないですかぁ。だって和久さん、もう刑事じゃないんだから」
「・・・おれにタメグチ聞くなぁ・・・ったく」
「あっ」
と言ったのは和久にではなく電話に向かってだった。
「店長? 青島です〜」
「あぁ、青ちゃん、ひさしぶり〜。 なに、今日はどうしたの?」
「例の健太くんが殴られた事件の情報が入ったんだよ」
「ほんとに!? で、どこの奴?」
「ゴールドフィンガーって店、知ってる?」
「あぁ〜、あそこかあぁ。知ってるよ。最近出来たみたいでさぁ」
「じゃ、真行寺さんに電話して、そこの場所、教えてやってよ」
「あい、わかったよ〜。それよりもさぁ、時々店に出てくんないかなぁ?一番人気の健太があんな顔になっちゃったから大変なのよぉ」
「いやぁ〜こっちも忙しいんだよねぇ、そのうちね。んじゃねぇ」
「はいよ。じゃあ」
と、電話を切った青島に、また和久。
「おい、青島ぁ。おまえ情報屋に頼らないで、自分で捜査しろよ」
「んも〜、忙しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。それにホストクラブで聞き込むのは女性の方がいいでしょ?」
「・・・ったく・・・」
「あ、先輩。先輩に頼まれてた大将のとこの寿司屋で客が喧嘩して、見習いの卓郎くんに怪我負わした事件の聞き込み行ってきますねぇ」
「あ、悪いね真下。 係長にそんな仕事頼んじゃって」
「いいんですよ。でも三芝のOLたちとの合コン、頼みすよ!」
「分かってるって。あ、美香先生が居たら、よろしく言っといて」
「そんなことまで面倒見きれません。じゃ行ってきまぁす」
「はい、行ってらっしゃい」
「おい、青島ぁ・・・」
「なんスかぁ!和久さん。まだ何かあんすか?」
「おまえもしかして、あの先生まで情報屋にしてるんじゃないだろうなぁ?」
「・・・そ、そんなわけ無いじゃないですか。美香さんは教師なんですから・・・」
焦りながら、タバコに火を付ける。
「怪しいなぁ・・・おぃ」
顔を近づける和久。
「べ、べつに怪しくなんかないッスよ・・・」
老いても、勘の鋭さは衰えない和久にタジタジになっている。
当たらずとも遠からず。じつは情報屋は美香ではなくて、大将なのだ。

[2000年01月25日(火)](By まゆっち)

「何だ、こりゃ?」
青島のデスクの上に、ひび割れて白い結晶が浮いた黒い塊。
「夏美ちゃんですよ、このところ毎日練習してるみたいですよ。昨日も乗っかってたでしょ。あれ、一応ケーキだったそうですよ」
真下が危険な物を触るかのように、やはりただの黒い塊を突っついている。
「アンジェラのザッハトルテは最高なんだよぉ」
と、魚住は誰も聞いてないのに自慢気だ。
ガリッという音と共に、
「固ぇ!」
と叫んだ青島には、その黒い塊が元チョコレートであるらしいということが判った。
「ふ〜ん、まあ、当日までに上手になってくれればいいよ。」
とひきつる青島の後ろで
「ですよね・・うん」
青島の叫びを聞いて、自分のところの塊を丁寧に包んでカバンに突っ込む真下。
二人の勝手なやり取りを聞いたすみれ。
「失敗作を食べさせるようじゃ、本命が青島くんたちじゃないことは確かねぇ」
顔を見合わせる真下と青島。

「何モタモタしてるの?時間を守るのも大事なルールなのよ!」
「はーい!でもちょっと・・待ってくださぁい・・」
「言い訳しない!」
刑事課まで響いてくる夏美の上司の叱咤は、実はその本命チョコの行き先であることを、まだ誰も知らない。

[2000年01月24日(月)]

ずっと伸ばし続けていた髪を切ったすみれ。
夕方まで誰にも気付いて貰えず、本人もそんなこと忘れてしまった頃になって青島から
「似合ってるね、すみれさん。その方が楽そうだよね」
とすれ違った時に不意に言われて、ニコニコしていた。

[2000年01月23日(日)]

「先輩先輩、知ってます?」
妙に嬉しそうな真下。
「なに?」
タバコくわえてパソコン叩きながら青島が返す。
「本店の友達から聞いたんですけど、ほらむかーしうちに来たプロファイリングチームいたじゃないですか」
ニコニコしている。
「ん?副社長の時?」
「いや、もっと前。和久さんに悪態ついて怒らせちゃったやつらですよ」
「あー、あの三人組か。あいつらがどうかしたの?」
にじり寄って声が小さくなる真下。
「あいつら、だいぶ前にクビになったらしいんですよ。職務態度が悪いとかで」
「プロファイリングはもう古いとか、誰かも言ってたしねぇ」
と、タバコを灰皿に押しつける。
「でね、友達がコンピュータの会社で内偵捜査してたら、そいつらその会社にいたんですって」
「へー、再就職無事に出来たんだねぇ。でもなんでお前がそれで喜ぶわけ?やなやつだねぇ」
最後の言葉に力が入る。
「いや、まぁねぇ。なんかいけすかない奴らでしたから・・」
「ふーん。でもそいつらきっと、俺達よりずっと給料いいよね」
相変わらずパソコンに向かい続ける青島。
無言になって固まる真下。

[2000年01月22日(土)]

机の上に置かれている写真立てが不意に割れて、魚住が家族を心配している。
家に電話するがいつも誰かいるはずなのに誰も出ず、不安はつのる。
と、あたふたしていると、子供達の手を引いたアンジェラが凄い形相でやってきて、そのうちケンカが始まってしまった。
大声でやり合っているのに、フィンランド語なので誰にもケンカの理由が分からない。
「写真立てが割れたのは、この予兆だったんですねぇ」
と妙に感心している真下。
突然魚住夫妻のケンカの声が止んで、しばらくしたらすっかり甘い雰囲気になっている。
「フィンランド人はさっぱりわからん・・」
と、和久は呆れ顔。

[2000年01月21日(金)]

パスタがよちよち歩き回っているが、来たときよりちょっと大きくなってムクムクしている。
尻尾を振って刑事課の入り口にさしかかるとちょうどすみれが出てきた。
見つめ合う二人。
「あなた、逃げなくなったのねぇ」
舌を出しながら尻尾をすごい勢いで踊らせている。
「なによ。なんか文句ある?」
腰をかがめるすみれ。
トコトコと寄ってくるパスタ。
「やっと私が名付け親だって気が付いたのね、パスタちゃん」
と、撫でようとすると
ワンッ!
と一声あげて脚の間をくぐっていった。
「あらら、まだ嫌われてるんですか?」
と真下が後ろから声をかけると
「でもちょっとお近づきにはなれたわよ」
とニコニコするすみれ。
「なんですみれさんだけダメなんだろうねぇ」
魚住が腕組みしながら唸る。
「署に来る知らない人にもついてくくらいなのにねぇ」
向こうにはすっかり桑野の腕の中に収まっているパスタ。
「桑野さんにあんなこと出来るのはパスタと夏美ちゃんだけだよね」
と真下は逃げるように出ていった。

[2000年01月20日(木)]

署内をものすごい威圧感と共に歩き回る桑野。
「桑野さん、来月からじゃないの?ここんとこよく来るわよね」
「いろいろ引継ぎあるからでしょ?」
「なんかそこにいるってだけで、すごいわよねぇ」
圭子と妙子と葉子が隅っこでちっちゃくなって話している。
「わたし、前から気になってたんだけど」
と言い出したのは圭子。
「岸本さんが産休でその代わりに来るのよねぇ」
「うん」と妙子と葉子は同時に頷く。
「岸本さんは警務課なのにさ、なんで桑野さんは交通課にくるわけ?」
「うーん?」と二人は同時に首をかしげる、と
「はい、そこ!仕事しなさい、仕事!」と桑野の怒鳴り声。
「はいっ!!」三人同時に立ち上がって固まっている。
「あなたたちみたいに気合い入ってない子がいるから交通課を志願したのよ。なのにぜんっぜん変わらないわねぇ、まったく・・・」
右手に持ったレポートを左手にポンポンと叩きながら説教をしていると、ちょうどそこに通りかかる青島。
「あー圭子ちゃんたち怒られてるんだぁ。大変だねぇ。桑野さんにしっかり鍛えて貰いなよ」
と、指さしながら楽しそうに茶化していると
「青島!あなたもよ!!」
「はいっ!」
声を裏返して、思わず敬礼までしてしまう。
刑事課の柱の陰で和久と真下が笑いをこらえながら、それを見ていた。

[2000年01月19日(水)]

「おや、青島君。いつものカバンじゃないんだねぇ」
と気が付いたのは魚住だった。
「あれ、だいぶ汚れたから洗濯してんすよ」
「クリーニングですか?」と後ろから顔を出す真下。
「いや、うちで洗ったんだよ」
「大変だったでしょ」
熱いコーヒー片手の魚住がコップに口を付ける。
「そりゃもう大変。中身を全部出して、洗濯機に突っ込んで、干す」
「ぜんぜん大変じゃないじゃないですか」
真下が突っ込む。
「そーいや、おめーのカバンって、いつも何入ってんだ?」
和久が机に肩肘ついて青島の方を向いて訊いた。
「そんなに毎日持ち運びしなきゃいけないものもないしねぇ」
「なにか怪しい物でも入ってんじゃないですか?」
と真下がニヤニヤ青島を見る。
が、青島は数瞬の間真下をジッと見つめた後、そのまま無表情で出ていってしまった。
何が入ってるんだ、とそれぞれで思いながら動きが止まる三人。

[2000年01月18日(火)]

「陽が落ちるのがゆっくりになってきましたね」
現場へ向かう真下と青島。
「そうだな。いつもこのくらいの時間には真っ暗だったのになぁ」
「昼間はよくてもやっぱこの時間は冷えますねぇ」
マフラーを巻き直しながら、真下。
「ここんとこあったかかったからさぁ、インナー外してきちゃったんだよね。ちょっと寒いや」
両手でコートの襟を掴んでくるまれる青島。
「あいつを見習わなきゃいけないね、寒さに関しては」
と青島の指さした向こうに、コート一枚で前をはだけた男。女子高生らしき集団が悲鳴を上げている。
「最近多いですよねぇ。なんなんでしょ」とブツブツ言う真下の横を、少し駆け足になる青島。
「お・じ・さんっ」
と男の肩を叩き、振り返った襟元をギュッと掴む。
「ちょっ署に来てその寒さに強い秘訣、教えてくれるかなぁ?」
そして振り向いて
「おい真下。そこの証拠品持ってくるのはお前の係ね」
「えぇ〜!」
と、スネた真下は道路の端に落ちている大きなパンツを、少し悲しそうに見つめた。

[2000年01月13日(木)]

「せんぱーい、おはようございます。お休みどうしてたんですか?」
「あ、おはよ。ん?何が?」
「昨日ですよ。お休みだったじゃないですか」
「なんでそんなことお前にいちいち言わなきゃなんないんだよ」
「そうだよ真下くん。そういうのは聞いちゃ悪いよ」
「はぁ?オレ、何もしてないっすよ」
「おめー、全部はいちまえよ。楽になっからよ」
「え、え?なんすか?みんなして・・・」
「せんぱーい、隠してもこういうことはすぐばれちゃうんですよ。言っちゃいましょうよぉ」
「なんだよ、袖引っ張んなよ」
「おはよ」
「あ、おはようございます」
「なに、みんなしてこっち見てんのよ。気持ち悪いわねぇ」
「昨日のこと、問いつめてるんです」
「ん?何かしたの?」
「またぁ、知らばっくれてぇ」
「なんなの?この人達」
「いや、よく分かんないんだけどさぁ。いきなりこの調子なんだよねぇ」
「ほら、昨日二人して休んでたから、真下君が気になるみたいなんだよね」
「僕だけじゃないですよぉ。和久さんだって・・」
「あぁ昨日はね、ディズニーランド連れてってもらったのよ」
「美味しい物を食べたいっていうし誕生日だったからさ、プレゼントしたんだよ」
「それで?」
「ディズニーランドでミッキーの形のハンバーグ食べてぇ、ホテルでパスタとワインで乾杯してぇ、ケーキも食べてぇ・・・美味しかったぁ」
「おーおー、幸せそうな顔してんじゃねーか」
「そりゃ旨いもん食ってりゃそれだけで幸せなんすよ」
「いいじゃない。女の子はその為に生きてんのよっ」
「それでそれで?」
「それで、ってしつこいねぇお前。そのまま泊まって昨日一日遊んで帰って来たんだよ」
「おー!」
「何叫んでんだ、お前」
「ホテル中がミッキーでねぇ。ほら近くだとなかなか泊まる機会がないじゃない。よかったわよぉ。青島君も洒落たプレゼントしてくれるわよねぇ」
「で?」
「で?って、何が?なにエロジジィみたいな顔になってんすか。残ったのはディズニーランド中引きずりまわされた筋肉痛だけっすよ」
「それでそれでそれで?」
「何が聞きたいんだよ、お前。これ以上何もないよ」
「・・・遊んできただけ・・・か?」
「だからそう言ってんじゃないすか」
「美味しい物食べただけ?」
「美味しい物食べて、遊んだだけよ」
「泊まってきたんでしょ?」
「部屋は別ですけどね。オレ、近くに人がいると寝つかれないんすよ」
(・・・・ほんとになにもねーみてーだな)
(・・・・そうみたいですね)
(・・・・なんだかつまんないねぇ)
「何コソコソ言ってんだよ、気持ちわりーなぁ」
「ほんとね。放っといて、仕事しましょ」
「ほらほらそこ、なにやってんだ」
「あぁ怒られちゃった。真下くんのせいだぞ」
「えぇ!?僕だけじゃないですよ。和久さんだって」
「なに口とんがらかせてんだ。ほら仕事だ。行くぞ」
「はーい」

[2000年01月12日(水)]

「あの二人あれ以来ですか?」
退屈そうに自分の席でノビをした真下が訊ねる。
「そうみてぇだな。二人とも非番だしよ」
あまり気にしない様子で書類書きを続ける和久。
「ふわぁ・・いいですねぇ、若くて。じゃお疲れぇ」
去っていく眠そうな魚住は夜勤明け。
なんだか忙しくて二人がいないということに気付く暇もない交通課をチラッと見ながら、また真下はあくびを一つ吐いた。

[2000年01月11日(火)]

署の入り口横にミニパトが止まった。
中から出てくるちょっと人より太い右脚。
湾岸署を見上げる鋭い視線。
たじろいでいる立ち番の森下に敬礼をして、中に入っていく。
彼女を最初に見つけたのはやはり夏美だったが、副署長も同時だった。
「桑野さん!」「パスタ!」
駆け寄ってきた二人はそれぞれの対象に抱きついた。
「こら篠原!勤務中だぞ」
と口調は怒っている桑野だが、顔は少し嬉しそう。
「どうして桑野さんがパスタを?」
「この犬、パスタっていうの?」
副署長は泣き出さんばかりにパスタを抱きしめている。
「昨日来たときに私のミニパトの下で寝てたのよね」
抱きつかれて落ちた制帽を拾ってはらう。
「可愛かったから連れて帰っちゃったのよ」
湾岸署の犬だということが分かって、少し残念そうな桑野だった。

その向こうを森下に「お疲れ〜」と言いながら出ていく青島とすみれ。
ちょうど戻ってきた和久と真下。
「お、もうお帰りか」と和久。
「あ、お疲れっす」
と言いながら去っていく二人。
「あれで恋人同士じゃないってのが、不思議ですよねぇ」
と見送りながら唸る真下。

[2000年01月10日(月)]

副署長が悲鳴を上げながら降りてきた。
「どうしたんすか」
青島が昼ご飯の菓子パンを頬張りながら聞くと
「パ、パ、パスタちゃんがいないんだよ」
と手をチョウチョのようにパタパタさせる。
「え?さっきうろちょろしてましたよ。抱っこしようと寄ってったら逃げてっちゃったけど」
すみれが椅子をクルっとまわして振り返ってこたえた。
「どっちに!」
副署長の悲鳴は続く。
「あっち」とすみれが指さすが早いか階段を駆け下りていった。
「僕らも探そっか」
すみれと顔を見合わせる青島。
後ろからの、早くその書類書いちまえよ、という和久の注意は聞こえなかったことにした。
しばらくみんなで探したが、結局夜になってもパスタは帰ってこなかった。

[2000年01月09日(日)]

「おい黒田、お前人助けしたんだってなぁ」
「え、聞いちゃったんですか。えへへ」
向こうでは青島やすみれが書類書きに追われているが、暴力班は暇そうだ。
コーヒー片手に椅子に深く座って黒田と赤羽が話している。
「女の子が車を避けようとしてすっ転んじゃっててね。ケガしてたから。ほら、俺らケガ絶えないから簡単な救急用具は持ってるんですよ」
黒田が得意げに言う。
「でもよ、そういうときは『名乗るほどの者ではないです』って言うんだよ。まったくヤラしいねぇ」
コーヒーをすする赤羽。
「いや、この風貌ですからねぇ。最初怖がられちゃって。ちゃんと身元を明かしておいた方がいいかと」
つるつるの頭を撫でる。
「そうだなぁ。誰が見ても刑事にゃ見えねーもんなぁ、お前さんは」
またコーヒーをすすった。
書類書きの手を休めてふと暴力班に目をやった青島。
「和久さん、あの二人ってとても刑事には見えないっすよねぇ」
くわえていたタバコを灰皿に押しつけながら隣りにコソッと言う。
「おめーもな」
和久は、書き上がったばかりの書類を見つめたままぶっきらぼうに答えた。
苦笑いする青島。

[2000年01月08日(土)]

「あのぉ、黒田さんいらっしゃいますか?」
と、三十五歳前後の婦人と十歳くらいの女の子が手をひいて、署の玄関に立ち番の緒方に聞いた。
「黒田・・・ですか?」
はて、という顔をする緒方。
「あれ、ここ・・・湾岸署よねぇ」
親子は天井の『警視庁湾岸警察署』のプレートを確認しながら少し不安気に顔を見合わせている。
「どうした?」
奥から森下も出てくる。
「黒田さんに用事があるんだって・・」
「黒田さん??」
森下も難しい顔をする。
「この子が自転車で転んでケガしたのを助けてくれたらしいんですよ」
と母親。
「湾岸署の黒田だって。何かあったらおいでって言ってたの」
女の子が二人を見上げて説明する。
そこへちょうど帰ってきた青島。
「あ、青島さん。この方達黒田さんて方に用事があるらしいんですが」
「あ、そ。でもなんで他人行儀な言い方してんのよ。」
と、訊かれた緒方の胸をポンと叩いて答える青島は
「こちらです。どうぞ」と親子を中に入れた。
刑事課に「ただ今戻りましたっ」といつものように明るく入る青島。後ろから続く親子。その後ろには何故かコソッとついてくる緒方と森下。
「あー!このおじちゃんだー!」
と女の子が指さして叫ぶ。
「おーさっきのお嬢ちゃんじゃないかぁ。もうケガ大丈夫か?」
と出てきたのは暴力班係のスキンヘッドの刑事だった。
親子でペコペコとお礼をしているその向こうで、
「判った?あれが黒田さん」
と青島が緒方と森下に妙な説明口調になっている。
「は、はぁ・・」
と苦笑いする二人に
「立ち番やってる君らがそれだから署内に変な奴がたびたび入ってくんじゃないの?」
と笑いながら突っ込む青島。
「く・・・・・」
何も言えない二人。

[2000年01月07日(金)]

子犬のパスタは人を怖がることを知らず誰にでもなつく。
たばこ臭い青島のコートの上でも気持ちよさそうに寝ているし、
「ちょっとお仕事なんだけど、そこどいてくんない?」
と青島がツンツンと突っつきお願いしても、動じることなく眠り続けている。
しかしそんなパスタも、なぜかすみれのことは怖がって寄りつこうとしない。
青島がどれだけ言ってもダメなのに、すみれの足音が聞こえた途端にピョンと飛び降りて真下の足元に逃げ込んだ。
「パスタなんて名前だから食べられちゃうと思ってるんじゃないですか?」
と真下にちゃかされるが、ふくれっ面のすみれ。

[2000年01月06日(木)]

「恩田君恩田君恩田君」と呼んでいるのは、何故か魚住だった。
向こうの方から真下までが「恩田君恩田君恩田君」と呼んでいる。
当の本人は笑っているのだが、中西係長はちょっとふくれ顔。
「もう武くんのせいだからなぁ。まったくぅ・・・」
とブツブツ言っている。
もうずっと長いこと中西はその呼び方をしていたはずだったが、夕べ何人かで行ったダルマでの簡易新年会の席上、
「中西さんて、いつも恩田さんのこと三回呼びますよねぇ。あはは」
とすっかり出来上がった武が指摘して、突如みんなの間で流行りだしたのだ。
「はぁ、すいません」
と後ろ頭に手をやってペコリとする武。
「あ、そうだ。恩田君恩田君恩田君恩田君、ちょっと」
と中西は手招きしたが、両腰に手を当てて顎を少し突き出したすみれに
「何ムキになってるんですか」
と突っ込まれていた。

[2000年01月05日(水)]

「去年も忘年会出来なかったねぇ、秋山くん」
「ですね」
署長室のソファーに深く腰掛けて、お茶をすすりながら呟く署長。向かいには副署長。
「忙しかったからねぇ」
「ですね」
「いちお寿司頼もうとしたけど『もうてめぇらのとこには配達しねぇ!』って親父に怒鳴られたらしいねぇ。いや、警務課長から聞いたんだけどね」
「ですねぇ、ほ〜らヨシヨシ」
「君、人の話聞いてないだろ・・」
「おっしゃる通りで。もうお腹いっぱいか?よーしじゃあちょっと遊べ」
副署長の膝の上でミルクをもらっていたパスタが床の上に置かれて、ヨチヨチウロウロしている。
「いやぁお前は可愛いなぁ」と目を細めている副署長を見て、署長は呆れ顔でまた熱いお茶をすすった。

[2000年01月04日(火)]

真下が子犬を拾ってきた。
署に戻ってくる途中、道端で鳴いているのを見つけたのだ。
「おー、どうするんだ、コレ」
「和久さん、コレなんて言わないの。可愛いじゃないですか」
雪乃がニコニコして子犬を撫でる。
「飼い主は見つかりそうにないよねぇ」
魚住は腕組みして渋い顔。
「署で飼おうか」
珍しく副署長がやってきて、何度も何度も子犬を撫でながら言う。
「お前さん、顔に似合わず犬好きなのか」
和久が感心している。
「いまさらまた捨てられないですしね。飼いましょうよ」
拾ってきた真下が強く訴える。
最初は乗り気でなかった袴田も 「じゃあ刑事課のみんなで責任持って世話するんだぞ」
とあきらめた。
「じゃあさっそく名前決めなきゃ」
しばらくみんなであれやこれやと話し合ったが、クジの結果結局すみれが決めることになった。
すみれは腕組みして人差し指を顎に当てて暫く考えていたが、何かひらめいたようにポンと手を打った。

数十分後、ミルクで満腹の子犬が丸くなって眠っている小さなかごには、大きく「パスタ」と書かれていた。

[2000年01月03日(月)]

「さっきの傷害事件、和久さんの代わりに真下くんが青島と行ってあげて」
と、袴田が真下の肩を叩いた。
「あ、はい。でもなんで?」
いつもは青島と和久が一緒に動いているので真下が思わず聞き返した。
「ほら、もうじーさんだからさ、寒いのに無理させちゃ悪いじゃない」
青島がニヤッと笑いながら言うと、後ろに和久。
「誰がじーさんだって?」
「あ、いや、そうじゃなくって、ほら、腰痛いんじゃないかなぁって」
しどろもどろになる青島。
フンと鼻を鳴らして和久はご機嫌斜め。
「ゆっくり休んでてください。あっ、そうだ。帰りにダルマ、行きましょ。説教、聞いてあげますから」
と青島が椅子に座る和久の肩を叩くと、和久はクルッと振り返り
「喜んで説教聞かれてもうれしかねーよ。説教なんてもんはイヤイヤ聞かれてないと勢いがつかねーんだ」
「・・・はあ・・・」
難しそうな顔の青島。

[2000年01月02日(日)]

初詣に行く女性たちが晴れ着を着てしとやかに歩いている。
「和久さん、あれ。綺麗っすねぇ」
目を細めて喜ぶ青島に、
「おっ、いい女だなぁ。おい青島右手挙げてろ」
と、右肩を叩く和久。
「あ、はい」
と言うとおりにする青島。
女性達は手を挙げる青島に気付いたがニコッと微笑んで軽くお辞儀をしただけで、通り過ぎて行った。
青島も目を細めて照れくさそうに笑い返した。
「ほら和久さん、勘違いされちゃったじゃないっすかぁ」
と口を尖らせる青島の前を客を乗せたタクシーが通り過ぎて行く。
「あぁ、賃走だったか。昼間はよくわかんねーんだよなぁ」
と通り過ぎたタクシーを振り返りながらブツブツ言う和久。
「正月ですもんねぇ・・なかなかタクシー捕まんないっすよ」
青島は新しいタバコをくわえながら、つぶやいた。

[2000年01月01日(土)]

副署長の第一声。二つほど手のひらを打ちながら、
「はい、みんな署長のご挨拶だ。よく聞くように」
咳払い一つした後、署長
「えー、みなさん、新年あけましておめでとう」
その短い一言も終わらないうちに、
「江東町で強盗傷害事件発生・・」と警視庁から入電。
「なに?空き巣にはいられた?」と中西係長が電話に叫ぶ。
「テレポート駅前で酔っぱらいが通行人を殴って女性が怪我してます」と電話を切った魚住が袴田に報告。
「よし!いくぞ!」とそれぞれ気合いを入れながら飛び出ていった。
「今年も一年怪我のないように・・・」
という台詞の頃には刑事課フロアはもぬけの殻。
「あ、あれ?みんな行っちゃうの?挨拶くらいさせてよねぇ」
と署長が手を擦りながらブツブツ言っていると、ロッカーからコートを無造作に引っ張った青島が
「事件に正月はないっすから」
と一言言い残して、やはり皆と同様に走って出ていくのだった。

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