2003/5の湾岸署
[2003年5月9日(金)]
マンションの玄関前である。
ピンポーン。
「はーい?どなたですか?」
「警視庁です」
スーツをきちんと着込んだ刑事がドアの覗き窓に警察手帳を開いてみせる。
ゆっくりとドアが開き、中から髪がまだボサボサの中年女性が出てきた。
女性は怪訝そうな顔で刑事を見ると、その後ろで暇そうにしている青島を見つけた。
青島は目が合ったので軽く会釈をし、自分も警察手帳を開いた。
「湾岸署の・・」
と言いかけたところで、警視庁から来た刑事が事務的に話し始めた。
「そこのコンビニで強盗がありまして聞き込みしてるんですが、この方に見覚えないですか」
そういうと防犯カメラに映った犯人の写真を数枚見せた。
「えぇ?」
と覗き込む女性。
「随分とぼやけててよく分からないねぇ。こんなので分かるのかい?」
意味もなく太陽光に透かして見たりしている。
「これがね、知ってる人が見ると『あの人だ』って分かっちゃうもんなんスよ」
青島が口を出した。
警視庁の刑事は苦々しく青島を睨むが、青島は無視して続ける。
「おばちゃん知らないかな。背は165cmくらいのこういう服着たおじさん」
「いやぁ、分からないねぇ」
「青島君と言ったね。君は下で待っていたまえ」
「おばちゃんはそこのコンビニよく行くの?」
「いや、そんなには・・」
「青島君!」
怒鳴られてついに青島は後ろに下がった。
刑事はようやく落ち着いてまた女性となにやら話を進めている。
それを横目で見ながらタバコをくわえ、階段を下りた。
クルマの横につくと、青空を見上げながらタバコに火を点ける。
「あーぁ」
煙を一塊り吐き出す。
「ドラマだとここで犯人が現れて捕り物劇になったりすんのになぁ」
その時電柱の陰で何かがゴソッと動いた。
身構える青島。
しかし陰から出てきたのは野良猫だった。ニャアとひと鳴きする。
青島は肩を落とした。
そうしているうちに先ほどの刑事が階段を下りてきた。
「さ、次だ。それから君は聞き込みにはついてこなくていいから。分かったね」
そういうとクルマの後部座席にドカッと座った。
青島はポケットから携帯灰皿を出し吸い殻を突っ込むと、
「へいぃ、へい」
と乱暴に返事をして、運転席に乗り込むのだった。