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2000/05の湾岸署

[2000年05月31日(水)]

「こらー!青島ぁ!」
と叫んで追いかけてくるのは桑野。
「な、な、なんすかっ」
腰が引けている青島。
しかしふと我に返る。
「なんすか!?その恰好」
「悪い?いつも来る人がお休みだから」
と言う桑野は、掃除婦の恰好をしてモップを片手に握りしめている。
「話そらすんじゃないわよ」
モップの柄が青島の頭でコツンと音を立てる。
「足の裏、見てみなさい」
「?」
片足立ちになってもう片方の靴の裏を見る。
「あ、ガムだ」
振り返ると、粘着質のものがネコの足跡のように続いている。
「はいぃ、頑張ってね」
と、桑野からモップと帽子を渡される青島。
渋々モップがけを始めるが、自分の足の裏のガムを取ってなかったことに気付くのは、最初の足跡を消し終わった後であった。

[2000年05月30日(火)]

「おい、お前の顔以外に何か面白いことはねぇか」
「何言ってんですか」
笑っているのが和久で、怒っているのが真下。
「先輩にくっついてれば面白いことだらけじゃないんですか?」
とふてくされながら言うが、
「それもここんとこお前の顔ほどは面白くないんだよ」
と和久はまた笑った。
「いつから僕の顔が面白い顔になったんですか」
「こう、なんつーかな。主役は張れないね。脇役止まりだ」
「和久さん人相占いするようになったんですか」
「今からだよ」
「なんですか、それは」
「でも、ピタリと当たるんだ」
「いやですよ。僕だって主役になってやる」
「無理だね。こんなとこでアクビしてるうちは」
と言いながら和久はどこかへ行ってしまった。
「先輩が忙しいとお年寄りのお守りもしなきゃいけない。ったく」
遠くの和久は振り返り
「なんか言ったか?」
「み、耳いいんですね、和久さん」
「いつだったか青島にもそう言われたよ」
と和久は、また笑った。

[2000年05月29日(月)]

ちょうど帰ってきた魚住。
「あれぇ、珍しいねぇ。雪乃さんとすみれさんが一緒にいるなんてぇ」
と、目を丸くした。
「青島さんも真下さんもおやすみでしょ?ちょっと分からないことあって訊いてるんです」
振り返って雪乃が応える。
「へぇ、そうなんだぁ」
カバンを置きながらなぜか感心する魚住。
「ふたりが一緒にいるところあまり見ないから、仲悪いのかと思ってたよ」
「そんなことないわよ、ねぇ」
と最後のところは二人同時である。
「雪乃さんのだってよく買い物行ったりしますし、映画だって行ったしね」
と雪乃に向かって微笑む。
「係が違うから仕事じゃあまり一緒にならないですから」
と雪乃はすみれに向かって微笑む。
「へぇ、そうなんだぁ」
とまた同じ言葉で返す魚住が続けた。
「係違ってもすみれさんと青島君は一緒にいるところよく見るけどねぇ」
「いや、そんなことないですよぉ」
とすみれは笑ったが、雪乃の眼が瞬間光ったような気がして、魚住は口を閉じた。

[2000年05月28日(日)]

「おい、何やってんだよ、集合かかってるぞ」
と駆け足しながら叫んでいるのは緒方である。
一方森下は飄々と、
「身だしなみを整えてるんだよ。万が一ってこともあるからな」
と、鏡に向かいネクタイを締め直している。
「万にも億にもそんなことねぇよ」
イライラしながら怒鳴る緒方。
「なにごとも準備が大切なんだ・・お、おいっ」
と森下は全てを言い終わらないうちに襟首を掴まれて引っ張っていかれた。
その後ろからのんびり歩いてくる影二つ。
「和久さん、ひさしぶりっすねぇ」
と呟いたのは青島。
「そうだなぁ。台場も人が多くなったからな。一日署長やって充分宣伝になるんだろうよ。日曜だしな」
「今年は誰が来るんでしたっけねぇ」
「あー?鈴木とかいう名前じゃなかったか?」
と和久は上を向きながら応えたがすぐに
「おめーの方が詳しいんじゃないのか?」
「いや、最近の子は知らないんすよ」
「へぇ」
「和久さんの方が詳しいんじゃないすか?篠原ともえ知ってたじゃないすか」
「ありゃたまたまだ。俺は演歌しか聴かねぇ」
などと言っていると、玄関から沢山の黄色い悲鳴があがった。
「お、署長様のおでましだ」
と二人も階段下でみんなの横に並んだ。
玄関口では森下がしきりにネクタイを気にしていたが、アイドルは呆気なく素通りしてくる。
「またみんなサイン貰うのに並んだりするんすかねぇ」
と青島がめんどくさそうに和久に囁くと、
「俺のも頼むぞ」
と和久。
その後ろ手には、しっかり色紙が握られているのだった。
「息子がファンでなぁ」
と照れ笑いをするが
「息子なんていないじゃないすか、和久さん」
と青島に突っ込まれていた。

[2000年05月27日(土)]

「あ、おかえり」
と言ったのはすみれで、
「ただいまぁ」
と笑ったのは青島である。
袴田に、ただいま帰りました、と挨拶しているとすみれが後ろからつついてきた。
「ん?なに?」
振り向くと、廊下の向こうを指さしたすみれがニッコリ笑った。
「あ、来てんだ」
早速コンピュータルームを覗きに行く。すみれも後に続いた。
「ずーっとね、あの調子なのよ」
と、大きなガラス越しに中を見ると、室井のしかめ面。
視線の先はノートパソコンで、その周りで真下がウロチョロしている。
「真面目に習ってんじゃないの、室井さんもぉ」
と笑うと、ガラスの中の真下が室井にお辞儀をし、室井が廊下に出てきた。
部屋を出るなり大きな背伸びをしたが、青島の視線に気付いて襟元を正す。
「終わったんすか」
と青島の方から声をかけた。
「いや、休憩だ。もうこんな歳だからいっぺんにやっても頭に入らない」
と、そのまま一緒に休憩室に向かう。
「勉強熱心すねぇ」
お世辞なんだか判断しがたいことを言う青島。
「パソコンくらい使えないとな。下からの突き上げもあるしな」
室井の眉間の皺は相変わらずだ。
「真下君、ちゃんと教えられてる?」
とすみれが覗き込むと、
「まぁまぁだな」
と、応えた。
「悪いな、真下くん借り切ってしまって」
と、どちらにともなく言うと青島が
「大丈夫っすよ。ありゃいつも席で大あくびしてるだけっすから」
と、笑った。
それから真下が「そろそろはじめましょうか」と迎えに来るまで、しばらく三人でコーヒー片手に休憩室で何やら雑談していたのだった。
すりガラスの向こうからは暖かな日差しが差し込む、今日の湾岸署である。

[2000年05月26日(金)]

「青島くん、寝相悪すぎ」
「悪かったって言ってるじゃないの」
「女の子の顔殴るなんて最低よ」
「ごはん奢るってば」
「いつも食べ物で釣ろうったってそうはいかないわよ」
「じゃあ、行かない?」
「行くわよ」
「なんだよ。釣られるんじゃない」
「釣られてあげるのよ。微妙なニュアンスの違いを理解しなさいよ」
と、青島とすみれが歩いている後ろで真下と雪乃。
「・・・ね、寝相?」
「先輩とすみれさん、とうとう・・・」
「ま、まさかね」
一応笑ってみる雪乃。
そんな顔を見ていられなくなったのか、真下は前に声をかける。
「先輩」
「なに?」
と二人は同時に振り返った。
「先輩たち、どうなんですか?」
さすがに半分うつむきながら訊く。
「どうってなによ」
と応えたのはすみれ。
「いや、ほら、寝相がどうとか・・」
そう言いながら真下は雪乃をチラリと見るが、完全に沈んでいる。
「こないだそこで寝てる青島くんを起こしたのよ」
と、すみれは壁の向こうを指さす。
「そこって・・ホ、ホテル?」
指さした方角、川の向こうにホテルがあるのを思い出した真下は、もうそれしか頭にない。
その呟きは聞こえなかったか、青島が続ける。
「すみれさんが起こしてくれたんだけど、ちょうど寝返り打って顔叩いちゃったんだよね」
と笑った。すみれは「もー」と言いながらその後ろ頭をつついている。
「なに?オレの代わりにすみれさんに奢ってくれるのか?」
と笑いながら、二人は行ってしまった。
「ゆ、雪乃さん。ホテル行ったみたいですよ」
動揺している真下に、雪乃はもう笑っている。
「何言ってるの。そこ、よ。そこ」
雪乃も同じ方向をあこで指す。
「あ!?」
「もう、真下さん何考えてるの?」
と真下を置いて雪乃も行ってしまう。
「あ・・そうか・・」
その壁の向こうは、応接室であった。
「仮眠室あんだからそこで寝ろよなぁ」
真下は、すでにいない誰かに向かって、呟いた。

[2000年05月25日(木)]

「室井さんが来ますよ」
ノートパソコンを叩きながら真下がボソッと言った。
「ほんと?なんで?」
青島はタバコをくゆらせながら訊いた。
「僕にパソコン教えてくれって」
「へぇ。室井さんがねぇ」
「インターネットでメールがしたいとか、言ってましたよ」
真下はさっきからパソコンに向かったままである。
タバコの煙で環を作りながら青島は、
「メールって、本店でやってんじゃないの?」
と言って、自分で作った環を掻き消した。
「家でもやりたいんですって」
「パソコン持ってんだ」
「買ったそうです。ノートパソコン持参してきますよ」
「へぇ、気合い入ってんねぇ」
と青島が半分茶化すと、向こうで例によってゴルフクラブを振っていた袴田が口を挟む。
「君なんかによく頼むよねぇ。教え方大して上手くないのに」
「そんなことないですよ。署長だってあそこまで出来るようになったじゃないですか」
真下は反論するが、
「あれは自分の努力の賜物だよ」
と言い返す袴田。しかし、
「まぁ仕事もせずに一日触ってりゃ誰でも出来るようになるか」
ハッハッハと袴田が続けた笑い声を覗き込む署長を、青島だけが見つけた。

[2000年05月24日(水)]

「失敗したわ・・」
とすみれがしょげている。
「どした?」
と青島が椅子ごと回って振り返ると、
「見て、これ」
昨日のダンボールだ。
「どしたの?」
と開けてみるが特に異常はなさそう。
キョトンとする青島に、
「おひとつどうぞ」
とチョコを取って渡した。
「あ!」
青島の手の上でチョコがぐんにゃりしている。
「もうあったかいから部屋の中じゃ保たないんだねぇ」
「かといってこんなにいっぱい冷蔵庫に入らないしねぇ」
それを聞いていた真下が
「いいとこありますよ」
と二人を連れて行った先は、コンピュータルーム。
「おっ、涼しいじゃん」
と喜ぶ青島に
「コンピュータは熱に強くないので空調きつめにしてるんです」
と、真下は自慢気である。
目立たないところにソッとダンボールを置いたすみれは
「滅多に使わないこんな部屋に金かけるなんて税金の無駄ね」
と、呟いた。

[2000年05月23日(火)]

「せ、先輩、なんですかこりゃ」
大きな箱を渡された真下が叫ぶ。そして腰が落ちる。
「お、重い、よくこんなの持ってこられましたね」
「そんな言うほど重くないだろ。ひ弱だねぇ、ほんと」
エレベーターのランプが降りてくるのを見上げて待っている青島。
「なんなんですか、これ」
と真下が言うと、エレベータがポンと鳴った。
先に乗り込んだ青島がドアを押さえていると、真下は床に置いたダンボールを蹴って入ってくる。
「おいおい、足蹴にするなよ。食べ物なんだから」
「はぁ?」
そこへすみれが駆け込んでくる。
「丁度良かった。すみれさん、これ」
「あ、ありがと」
青島から何かを受け取ったすみれに訊く真下。
「なんです?」
「ライブのチケット、青島君に取って貰ったのよ」
と、青っぽい封筒を指で挟んで見せた。
後ろで
「友達がコネ持っててね」
と微笑む青島に、すみれ。
「で、お釣りは?」
「あ、あれね」
青島の目が泳ぐ。
「そう、あれ」
「話せば長いことなんだけど」
「簡潔明瞭に」
「じゃ、これ」
と足元のダンボールを指さした。
「?」
フタを開けると、ギッシリ詰まったチョコレート。
「あはは、化けちゃった」
と笑う青島に
「ひとの金でパチンコしないでよ」
と睨むすみれ。
だがすぐに機嫌よく
「でもこれだけあれば当分おやつに困らないわね」
と、軽々と持ち上げ、ちょうど開いたエレベータを降りていった。
「お前、ほんとにひ弱なんだな」
と青島に言われた真下は、口を開けて呆然としていた。

[2000年05月16日(火)]

「おい、青島!なんなんだ、この髪は」
と、青島の後ろ髪を掴んだのは桑野。
「いて、いててて!」
引っ張られて後退する青島。
「こんなチャラチャラした髪でいいと思ってるのか!」
「あ、和久さん、助けてくださぁい」
通りかかった和久に救いを求めるが、
「おめぇはいつもチャラチャラしてるからな。良い機会だ、しぼってもらえ」
などと笑いながら行ってしまった。
桑野の説教は続く。
「ほら、室井さんはいつもピチッとしてるじゃないの」
「なんでそこで室井さんが出てくるんすか?」
素直に疑問に思い訊くが、適当に誤魔化されてしまった。
それを見ていた雪乃と真下。
「なんか桑野さんここんとこ厳しいですね」
「そうね」
「僕も昨日背筋はまっすぐ伸ばして歩けって、怒られました」
「真下さん、いつもナヨナヨ歩いてるからよ」
と笑った。
「桑野さん、来月いっぱいでまた勝鬨署へ戻っちゃうみたいよ」
「そうなんですか?」
「それまでしばらく厳しいから気を付けましょうね」
などと言っていると早速、
「ほらそこ。タラタラしてる暇があったら仕事する!」
と桑野の怒声が飛んでくるのだった。

[2000年05月15日(月)]

「先輩、ポケベルもうやめましょうよ」
外出しようと青島が机の中から出したポケベルを見た真下。
「今どきポケベルなんか持ってる人いないですよ」
「いいじゃないか。気に入ってんだから」
そのポケベルの画面を腕にこすりながら憮然とする青島。
「携帯だって持ってるじゃないすか。あの音のいいやつ」
「あれはあれでいいんだよ」
へんなのー、と言っている真下を横目に出かける準備をする青島。
ロッカーでゴソゴソしていると、真下が
「あ!」
と叫びながら青島にかけよる。
「なんだよ、うるさいねー」
「携帯の番号おしえてくださいよ」
スーツの内ポケットからメモを取りだし、ペンを探す真下。
「やだよ」
素っ気ない返事に止まる真下。
「なんでですかー。僕が緊急で連絡したいときどうすればいいんですか」
「だからポケベルがあんだろ」
と青島は、ポケベルを見せるのだった。

[2000年05月13日(土)](Thnx えびりょう)

「はぁ〜、ヤバいことしちゃったなぁ・・・」
夏美がイスの背もたれに体を預ける。
帰る準備をしてた圭子が夏美に話しかける。
「どうしたの?」
「あの〜、さっきお客さんが来てたんですが、その人がですね・・・」
と、さっきあった出来事を圭子に話す夏美。 「そっか・・・。でもしょうがないわね。その頃は篠原さんいなかったもんね」
「そうなんですけど・・・柏木先輩にどう謝っていいのか・・・」
「う〜ん。そうねぇ・・・」
真剣に悩み込む二人。
圭子が、考え込んでいる夏美に言う。
「青島さんがなんとかしてくれるでしょ。それに篠原さんが悪いことしたわけじゃないんだから気にしなくていいわよ。今日はもう帰ろっ。」
「そうですね」
と言って交通課を出て行く二人。

更衣室で着替えを済ませ廊下を歩いてると、後ろから聞き慣れた声がする。
「あ〜、もう帰るの〜? いいなぁ〜」
二人が振り返ると、そこには雪乃がいた。
驚く二人。すかさず夏美が雪乃に声をかける。
「あっ! 柏木先輩! あの〜、さっきはどうもすいませんでした!」
「いいのよ、気にしなくて。平気平気」
にっこり笑って答える。
「本当にすいませんでした・・・」
夏美、面目無さそうに言う。
「あぁ、もう帰っちゃうんだ。いいなぁ〜」
雪乃の後から追いかけてきた青島が二人に言う。。
「もしかして、今から事件の捜査に行くの?」
圭子が雪乃に問いかける。
「うん、ちょっとね」
雪乃が答える。
「そうなんですか。がんばって下さい」
夏美が青島と雪乃に言う。
「じゃ、青島さん、行きましょ。」
「おう・・・じゃ、おつかれ〜」
と言って、行ってしまう青島と雪乃。
しばらくすると青島が振り向き、OKのサインを出してニヤッと笑う。
圭子が夏美に言う。
「大丈夫みたいね」
夏美が答える。
「そうみたいですね・・・帰りましょうか」
と言って歩き出す二人。
その時夏美が見上げたビルには、湾岸商事と書かれていた。

→雪乃にザッピング

[2000年05月12日(金)](Thnx 千南晶)

現場帰りの二人。
「ねー、疲れたし喉乾いたから、そこでお茶でもしない?」
テラスのある可愛いカフェを指さすすみれ。
「ダメ、勤務中だぞ」
青島は格好つけて答えた。
「・・・あ」
「どしたの?」
立ち止まる青島を、すみれが訝しげに見る。
「ちょっと、寄り道していい?」
青島が指さした先は、ミリタリーショップ。
「・・・勤務中じゃなかったのっ?」
と言いつつ結局ミリタリーショップとカフェで一息ついた二人の事を、署のみんなは知らない。

[2000年05月11日(木)]

「雪乃さーん」
「いやよ」
雪乃の後ろから走ってきたのは真下であるが、雪乃は振り返りもせずに応えた。
「なんでですか、まだ何も言ってませんよ」
口を尖らせている。
「声で分かるのよ、真下さんのは」
「何がですか」
まだ口は尖ったままだ。
「仕事の話かプライベートな話か」
「それなら話が早いや。プライベートです」
「だ・か・ら、いやよ」
最後の一言を異常に速く言い終えると、雪乃はまた歩き出した。
「ちょっと雪乃さん」
今度呼んだのは青島だ。
「はーい」
これ以上になくにこやかに振り返る雪乃。
「こうなるのは分かってたけどね」
真下の口はさらに鋭く尖っている。
そしてうつむいて呟いた。
「はやく先輩、すみれさんとくっついちゃえばいいのに」

[2000年05月10日(水)]

「ずーっと気になってたんだけどよ」
「なんすか?」
和久は青島のたばこの煙を片手で払っている。
「おめぇ、いつうちの娘と結婚してくれんだ?」
ムセる青島。
「そ、そんな約束しましたっけ?」
「おめぇも全然結婚する気ねぇみてーだしよ。いいじゃねぇか一回くらい」
「や、やめてくださいよっ」
肩に乗せられた和久の手を振りほどく。
「一回くらいってねぇ。中学生の万引きじゃないんだから」
「警察がそんな例えしていいのか」
「何言ってんすか。上司だからって会ったこともない人と結婚させようとしないでください」
「上司じゃねーよ。指導員だ」
と腕章をかざす。
「上司でも指導員でも、やです。理想の人がいるんすから」
「お、すみれさんか?」
「なにニヤニヤしてんすか。違いますよ」
と言いながら、タバコの火を消した。
「峰不二子です」
「誰だ?そりゃ?」
「ルパンの恋人」
「そんな横恋慕してる暇あったらうちの娘の相手してくれよ。彼氏いない歴三十有余年だぞ」
「どこでそんな言葉覚えてくるんすか」
そんな二人の電柱の陰での張り込みの成果は、なかった。

[2000年05月09日(火)]

「あーあ、連休も終わっちゃったなぁ」
と青島が大きくノビをした。
「連休ったって、先輩は非番一日しかなかったじゃないっすか」
真下が突っ込む。
「世の中は連休だったんだ。また同窓会行けなかったよ」
まだノビていると、神田と秋山が顔を出した。
「先輩、署長ですよ」
と腕を揺すって下ろさせた。
「あー、みんな揃ってるね」
神田はいつものように、両手をこすり合わせている。
「先日バスジャック事件があったよね」
という神田を見て青島が小声で
「なんでそんな話を嬉しそうに話すんだろ」
と真下に囁くと
「いつもあんな顔でしょ」
とこちらも小声で返した。
神田が続ける。
「あの翌日東北の方でもあれを真似したバスジャックがあったのは知ってるね」
「あったの?」
とまた青島。
「先輩が非番の時ですよ。ニュース見てないんですか」
「一日寝てたよ」
「君たちうるさいよ」
神田の後ろで立っている秋山が憮然と注意する。神田はそれを無視して続ける。
「そこでだ。わが管轄内でもそんなことが起こらないように充分に注意するように。以上」
と言い放ち、二人でまたニヤニヤとどこかへ行ってしまった。
「署長もたまにはまともなこと言いますねぇ」
と真下が感心していると、青島。
「どこがだよ。連休ボケしてるんじゃないのか?訳分かんないこと言って」
「なんでです?」
「だってさ」
青島は椅子に深く座り直した。
「起こってもいないバスジャックにどう注意すりゃいいんだ。全路線に張り込めってのか?」
とまた、ノビをするのだった。

[2000年05月04日(木)]

「すごい花だねぇ!」
青島は叫び声をあげた。
「綺麗でしょ」
すみれはニッコリ笑って満足気な表情。
「綺麗だけど、この量はなに?」
「友達のところで余ったのを貰ったのよ」
「で、なんでその花がここにあるわけ?」
「いいじゃないの。春なんだし」
「って・・・」
と頭を掻いている目の前の青島の机は、花の山に埋もれていた。

[2000年05月03日(水)](Thnx はるりん)

青島は、腕時計を見た。
そして何か言いながら手のひらを擦り合わせた後、ニコニコとカップの蓋を剥がした。
「きゃああああ!!」
突然、向こうからすみれの絶叫が聞えてくる。
見ると、青島を指差してわなわな震えている。
「どしたのすみれさん、おっきな声出して」
と言いながら青島は、わさびラーメンをズズーっとすすっている。
「ちょ、ちょっと青島くん!それまさか、あたしのじゃないでしょうね!」
青島の手が、止まった。
「失敬だね。言っとくけどね、これは僕がやっと見つけて買ってきたのよ。そんな仮にも警察官がね、盗みなんて働く訳ないっしょ」
と言う言葉とは裏腹に、どこかぎこちない。
「信じらんない!」
とすみれは、自分のデスクの中を調べ始めた。
その後ろから、青島がこっそり覗いている。
引き出しの中にはいつの間に仕入れてきたのか、わさびラーメンの他にキムチラーメンやとんこつラーメン、ふかひれラーメンと、色とりどりのカップ麺が入っていた。
「疑り深いねぇすみれさん、同僚は信じようね」
その言葉に、すみれは振り返って青島を睨む。
「こりゃ失敬」
と青島はそそくさと自分の席に向き直って、またラーメンをすすった。
すると目の前にいる雪乃に気付き、後ろのすみれを箸で指しながら訊いた。
「今日機嫌悪いね。どしたの?」
「きのう、前から狙ってた幻のお弁当買えなかったんですって」
「幻の弁当??」
「ええ、何でも豪華客船のレストランの限定商品なんだそうです。2時間並んだのに買えなかったそうなんです」
「それじゃご機嫌斜めだねぇ」
すみれらしいと、二人が少し笑っていると、
「あとで窃盗の容疑で調書取るからねッ、青島くん!」
振り返ると、すみれは正の字の書かれたメモを片手に薄ら笑いを浮かべている。
「在庫状況、把握してんだ・・・」
青島は箸をくわえてラーメンのカップを両手に抱え、その場から逃げる準備に入った。

[2000年05月02日(火)]

数日に渡って追いかけた殺人事件が、解決した。
「今回は活躍できなかったなぁ」
と、青島はブツブツ言っているが、
「おめぇがすんのは活躍じゃなくて、攪乱だろ」
と和久が返している。
「それにしても珍しいですねぇ」
と真下。
「裏付け、先輩の係だとばかり思ってたんですけどねぇ」
「今回は新城さん本店に送ってって、終わり」
青島にも意外だったらしい。
「本店からきた刑事達があまりに不甲斐なかったもんで、裏付けも本店でやるんですって」
という真下はボールペンをくるくる回している。
「平和で何より・・」
誰ともなく、呟いた。

[2000年05月01日(月)](Thnx まうっち)

「捜査本部の昼食って、カレーが多いですよね」
真下がスプーン片手に言う。
「オレはカレー好きだから毎日でもいいよ」
と頬張って幸せそうな青島。
「・・ん・・?今日のカレー、なんだかいつもと違いませんか?」
何かに気付く真下。
「いい香りするわね、いつものお徳用ルーじゃないのかしら」
すみれも首をかしげている。
「そうかぁ?いつもとおんなじだよ」
青島はまだ口に残っているのに次の一口を近づけると、福神漬けを持った夏美が3人の間に顔を寄せてきた.
「柏木先輩ですよ.」
「今回は雪乃さんの仕切り?」
とすみれ。
「雪乃さんが?なにやってんだ」
青島は相変わらず頬張っている。
「そっか。だからかぁ」
すみれは皿を覗き込んでもう一度香りを深く嗅いだ。
「雪乃さん、料理上手だから・・・」
真下はスプーンの上のカレーを見てウットリしている。
「変わんないと思うけどなぁ」
青島は頬張りすぎて、もはや何を言ってるか分からない。
「お徳用ルーでもね、月桂樹の葉っぱと仕上げに野菜ジュースを一缶入れるだけで、こんなに変わっちゃうらしいです。憧れちゃうなぁ、柏木先輩・・・」
夏美は頬杖をついて遠い目をした。
その時、
「すまないが、もう一杯くれないか」
と近くの婦警に空になったカレー皿を差し出す新城の声が聞こえ、初めていつものカレーより美味しいのだということを、青島は知ったのだった。

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