真下正義の日記帳 1999年10月号
[1999/10/1]
先輩がこないだ買ったばかりのモデルガンを壊しちゃったらしい。
僕はその話をすみれさんから聞いたのだけれど、何故かすみれさんはプンプン怒っていた。
なんだかよく分からない二人だ。
[1999/10/2]
最近相性占いに凝っていて、いつでも出来るようにパソコンにも入れてみた。
先輩との相性はイヤになるくらいバッチリなのに、肝心の雪乃さんととなると全然ダメだ。
今日は秘かに先輩と雪乃さんを占ってみたら・・・・。結果は書かないでおこう。悲しくなるから。
[1999/10/3]
なんだか細かい仕事がいっぱいあって、本当に忙しかった。
疲れたので日記を書くのもやめようと思ったけれど、忙しいなら忙しいなりに書いておかないとと思ってペンを取った。
でも忙しいということしか書けなくて、そしてやっぱり疲れたのでもう寝る。
[1999/10/4]
雪乃さんのピアスがなくなったと言ってみんなで大騒ぎ。
僕も雪乃さんの席の周りを中心に探したのだけど、結局変なところで先輩が見つけちゃった。
和久さんのせいだったらしく犯人の和久さんはしばらくしおらしくなっていたけど、僕はそんなことより雪乃さんがピアスをしているということを知らなくて、ちょっぴりショックだった。
ピアス穴なんて開いてたっけなぁ。
[1999/10/5]
僕は全然肩が凝らない。
たまに痛いことはあるけれど、凝ってるかと言われると揉まれても痛いだけだからやっぱり肩は凝らない体質なんだろうな。
なのに休憩室にあるマッサージ機の収益をどこだかの震災の寄付にまわすとかで、座れ座れと言われる。
お金いれるだけじゃダメなのかなぁ。
ひょっとして僕はいじめられてるのか?
[1999/10/6]
今日もあの地獄の痛さのマッサージ椅子に半ば強制的に座らせられたら、自販機の飲み物が半分ホットになってたことに気付いた。
あぁ、冬がやってくるのか。コート出さなきゃ。
[1999/10/7]
署内に貼られた指名手配の似顔絵が妙に副署長に似ている。
「あれはほんとに副署長らしい」という噂が耳に入った直後に、先輩から「なんか副署長がコソコソしてて怪しいんだよね」と聞いた。
噂の張本人は先輩だったか。
[1999/10/8]
ここのところ不定期に雨が降るものだから、課の傘立てにも置き傘やら新しい傘やらで溢れんくらいになっていた。
それを見かねたのか、雪乃さんが整理していた。さっすが優しいなぁ。
僕も手伝ってあげたのだけど、雪乃さんは突然現れた課長を追っかけてそのままどこかへ行っちゃった。
僕の傘も五本もあったので、一本残して持って帰ってきた。あー重かった。
[1999/10/9]
今日は長時間外回りをしていたからか、喉がちょっとイガイガする。
帰ってきたら署の前で人だかり。何かと思って見に行ったら「見せ物じゃないってば」とか叫ぶ署長に胸を押されて追い出されてしまった。
あとで聞いたら署長の奥さんが事故をしたんだとか。ご苦労様。
[1999/10/10]
「まったくぅ。しっかりしなさいよ、情けないわねぇ」とすみれさんに背中を叩かれたのは、男連中がみんな風邪気味だったため。
昨日はちゃんとうがいをして寝たのだけれど、今日は咳が出始めてしまった。
大事にならないように治さなきゃね。
なんだか休みが多くてその分仕事がまわってくるから、僕まで休めないのだ。
[1999/10/11]
なんでも人形のクビが取れたからイヤな予感がする、と魚住さんがすっ飛んで帰った。
すみれさんは、そうまで魚住さんに心配される奥さんのことを羨ましく思って「あれでキャリアなら」と言ったと言うけど、ああだからキャリアでないんじゃないかな。
僕は結婚したらどんな夫婦生活になるんだろう・・・。想像つかないや。
[1999/10/12]
「オレと一緒に和久さんちに行こう」と先輩から誘われたけど、三人でお休み取れる機会はないでしょ、と言うと「そうだよなぁ」とがっくりしていた。
和久さんとは仲がいいからうちに遊びに行くのはいいんだろうけど、盆栽話を聞かされるのがイヤなんだろうな。
モデルガン集めが趣味の先輩に、盆栽が分かるわけがないもの。
[1999/10/13]
忙しくてみんなして出払っていたのだけれど、残された署長達はへんな婆さんに振り回されて大変だったみたい。
森下くんもヒィヒィ言っていたから、よっぽどだったんだろうな。
いなくてよかった。
[1999/10/14]
久しぶりに非番だったのだけれど、テレビを見てたらうちの管轄で籠城事件が起こったとかで、気になって署に行ってしまった。
本店がやってくるとかで署内も慌ただしかった。
珍しく大事件ということで先輩はヤケに気合い入っていたけど、和久さんに「どうせおめーは運転手だよ」と言われて、ちょっぴりしょげていた。
まだ風邪気味の鼻をグシュグシュいわせながら。
[1999/10/15]
みんなで交代で籠城事件の犯人の説得にあたってるのだけれど、向こうはしっかり食べ物も持ち込んでるらしくなかなか折れない。
先輩は本店から「青島を近づけさせるな」とのお達しがあったらしく、出番がないと怒っていた。
さんざん他の人の分も雑用を押しつけられてヘトヘトになっていた様子だったけど、帰るフリしてどうも現場に飛び出ていったらしい。和久さんもあとに続いていった。
僕もこれを書いたら新城さん乗っけて現場に行かなきゃ。
[1999/10/16]
丁度日付が変わった頃、新城さんを後ろに乗せた僕の車は現場に到着。
緊迫した雰囲気だと思っていたけど、意外にみんなのんきな顔をしている。
どうしたのか緒方くんに訊こうと思ったら、新城さんに先を越された。
その緒方くんが指さした先には、先輩と和久さんが犯人らしき男の肩を抱いて立っていた。
本店の人たちが犯人に群がったところで先輩は押し出されて「何だよー!」とか怒っていたが、僕を見つけると「仕事遅いよ、係長」とか言って笑っていた。
和久さんと二人で通り過ぎると後ろの新城さんに何か言ったらしく、「管理官、舌打ちしてましたよ」と森下くんが教えてくれた。
ありゃ、始末書だな。
[1999/10/17]
奇跡的にというかなんというか、いややっぱり奇跡的なんだろうな。
先輩は昨日の件はおとがめなしということになった。
勤務時間中なら命令違反だったのだろうけども、勤務時間外の行動ということになったらしい。代わりに表彰もされないが。
始末書覚悟だったはずの先輩には朗報なのだろうけど、当の本人は今日は非番らしい。 一応注意だけは受けたらしい課長が「あの勝手なことばかりするバカに休みなんていらん!働かせろ!」と怒鳴っていた。
お休みでよかったね。
[1999/10/18]
前から欲しかった室井さんと同じコートを着ている人を見かけた。
どこで買ったのか聞こうと声をかけたら、ちょっと怪しまれつつやっぱり「通販です」とのこと。
一体どこの通販で売ってるんだろう。
[1999/10/19]
今日は例の本店へ報告に行く日。
まぁいつもの通りのおざなりな面接だった。
帰りがけに室井さんを見かけた。なにやら忙しそうだったので声はかけられなかったけれど。
やっぱり室井さんは僕の目標だ。何よりも、かっこいいもんね。
[1999/10/20]
先輩の風邪はずいぶん長引いているらしく、あまり近くに寄ると感染りそうだから逃げ回っている。
油断していると突然耳元で咳されたりするから気を許せない。
上司を困らせるとは、まったく困った部下だ。向こうは微塵も上司だと思ってないみたいだけど。
[1999/10/21]
なんだかホントに体調が悪いらしく、先輩が静かになっていた。
ボーッとしてることも多いし、熱もあるのかもしれない。
そんな先輩を見ていたら、僕にペコペコする部下の顔の先輩を想像してしまって、なんだか居心地が悪かった。
やっぱり今まで通りの先輩がいいね。
[1999/10/22]
今日は非番。
この前のお休みには立て籠もり事件で署に行っちゃったから、ほんとに久しぶりのお休み。
昨日寝る前はいろいろ計画を練っていたのだけれど、起きたら夕方だった。
こんなもんよね。
[1999/10/23]
先輩が長らくひいている風邪をすっかりこじらせてしまったらしく、今日は休んでしまった。
食事もとれないほどの状態のようで、それを聞いたすみれさんが看病に向かった。
なかなか帰ってこないねなんてみんなで言ってたらそのうち帰ってきたのだけど、赤い顔してるし大きなため息はつくし、なんだかあやしい雰囲気。
まさか、先輩・・!?
[1999/10/24]
昨日はあんな危惧をしたけど、先輩に限って変なことはないよね。
今日はすっかり元気になって出勤してきたけど、今度はすみれさんが風邪に。
看病中先輩はマスクもしないでコンコンと咳してたらしい。感染されたすみれさんはカンカン。
すみれさんも風邪感染るほど長くいなきゃいいのに、と魚住さんと話した。
それで昨日顔が赤かったのか。それにしてもすごい感染力だなぁ。数時間であそこまでなるとは。
[1999/10/25]
今日は夜勤だ。
昔はこのあたりは夜は静かで事件とは無縁だったけど、最近は事件も多くなった。
でもこうしてのんびり日記を書いているということは、今夜はいたって平和なのだ。
酔っぱらいを和久さんが連れてきたけど、その和久さんも酔っぱらっていた。そのくらい。
[1999/10/26]
いよいよ冬なんだなぁと実感させられるのが、先輩のコート。
わざとヨレヨレにしてるって前に聞いたけど、今じゃ自然にヨレヨレになってるみたい。
先輩は寒いから出したって言ってたけど、ほんとは一年中着たいんだろうな。気に入ってるみたいだし。
[1999/10/27]
すみれさんが万引き犯を捕まえてきた。
近所のスーパーで常習だったのを張り込んで捕まえたらしい。得意気にしていた。
捕まえてしまえば被疑者もしおらしくなるもので、取り調べも順調だった。
と思っていたら、武くんが同じ人を今度はスリで捕まえてきた。
たまたま電車に乗り合わせていて現行犯逮捕したと言っていたけど、僕はずっとそこの部屋で取り調べされてると思っていたのでびっくり。
慌てて取調室に飛び込むと、万引き犯はちゃんとそこに座っている。
一瞬何がなんだか分からなかったけど、その二人は双子だったのだ。
姉妹で同じような悪いことしてちゃ、ダメでしょ。まったく。
[1999/10/28]
今日はびっくりした。昨日からびっくりし続けだ。
雪乃さんの呼び方のことでみんなで話していたら突然桑野さんが現れたのだ。
何かの用事で来たらしいけど、おかげで雪乃さんを雪乃さんと呼ばない人が一人判明した。
[1999/10/29]
夜勤明けの先輩が仮眠室で寝ていた。
疲れたならとっとと帰ればいいのに、帰る気力もなくなるほど忙しかったらしい。
でもそれを知ったのは先輩の大きな寝言が聞こえたからだった。
魚住さんとコーヒー飲んでたら、突然怒鳴り声がしたのだ。
さぞかし楽しい夢を見ていたに違いない。
[1999/10/30]
先輩が怒った顔で歩いているのでどうしたのかと思ったら
「オレ、夏美ちゃんに似てるって言われたんだよね。あんなおてんばに・・」
とか死語混じりにブツブツ言っている。
でも先輩、似てますよ。そっくり。
[1999/10/31]
今日は制服支給日だった。
今年は変な時期に支給日なのね。
いつかの仕返しなのか、先輩がやたらに派手な生地を持ってきては
「これ、真下の分ね」とか言っていた。
そんな妨害にも負けずに、僕はいつもの通りオーソドックスな服装にした。
あ、今日で10月も終わりか。この日記も二ヶ月続いていることになる。
いろいろあったけど、結構楽しい10月だったな。
一言で言えば「平和」ね。
来月はどんな月になるだろう。楽しみだ。
Written by かず
2000.2.9
2000.2.9