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エリート男の挫折と希望

話しは少しばかり前にもどる。(TV「年末特別警戒スペシャルの直後である。)

なんとなく慌ただしい警視庁の廊下である。
室井が足早に歩いて行くと前から新城が歩いてきた。
室井は新城が苦手である。
いやなやつに会ったと思っても、ひき返すこともできない。

「室井さん。どちらへ?」
「湾岸署だ。」
「湾岸署?また、青島の所ですか。あなたは、相変わらず無駄なことをしている。」
この男は絶えず室井と青島を、いや、所轄や現場を眼の敵にしている。
「無駄なことか。そうかもな。君のような東大閥では無駄なことはしないからな。」
「私はそう言う意味で言ってるんではないですよ。あなたは東大閥ではないのだか
ら、私達よりも効率よく仕事をこなさないと、出世できないと言ってるんです。」
「私のやり方は効率的ではないと言ってるのか。」
「出世できませんよ。これ以上。」
「私は来月から警視庁にもどる。今度は監察官だそうだ。」
「知ってますよ。本来はあなたと交代で警備局に行くはずでしたからね。」
「君が警備局に?なくなったのか、その話しは。」
「こないだの湾岸署の篭城騒ぎがあったでしょう。もう少し現場にいて所轄の連中に勝手なことをさせないようにと、刑事局長に言われました。青島のおかげで私の出世が流れたんだ。」
「そうか。残念だったな。」
「もともとは、あなたが青島を甘やかしたからだ!こんなもんじゃ終わりませんよ!」
よほど、くやしかったのか新城は急に声を荒立てた。
室井は返答に困った。
確かに青島や湾岸署の刑事のやり方は問題が多い。
しかし、彼らに言わせれば、本店の所轄を道具としか思わないやり方にうんざりしているのである。
室井には彼等の気持ちが少しづつ解かりかけて来ている。
いや、解かろうと努力していると言ったほうが正しいかもしれない。
新城が言う先だっての問題も、青島の行き過ぎがなかったわけではなかった。
結果的には本店の特殊急襲部隊が事態の収拾をしたのだが・・・。
今の室井は彼らと本店を繋ぐパイプラインである。
「あなたが、彼等の意見など聞こうとするからだ!所轄は本店の道具でいい。それなのに・・・。」

新城は子供の頃からのエリートである。
エリートはえてして打たれ弱い。
室井は新城が婚約破棄されたのを知っている。
おそらくは、新城の出世の取り止めにも関係があるのであろう。
廊下を去って行く新城の背中を室井は見ていた。
室井は新城が哀れに見えた。
出世だけが彼の人生の基準点なのだ。
ついこの間まで、青島達と出会う前の室井自身がそうであったように。

平凡に慌ただしい夕暮れの湾岸署刑事課。
室井が入って行くと、さっそく青島が声をかけた。
「室井さん。どうしたんですか?」
「ちょっと近くまで来たんだ。」
嘘である。
「なぁんか、最近よく来ますね。」
「じゃまか?」
「そんなんじゃないっすけどね。」
「ねえねえ、夕食おごって。」
すみれには遠慮がない。
「暇なのか?」
「所轄はね。嫌味じゃないっすよ。真下ぁ!室井さんがご馳走してくれるって。」
「本当ですか?行きます、行きます。室井さん。雪乃さん誘ってもいいですか?」
「あたし、呼んで来る。」
すみれが交通課に走った。

彼等にたかられながら室井はほっとしていた。
彼には仲間がいる。
新城にはない味方がいる。
それが、今の室井を強くしていた。
上にどんなに煙たがられても、自分の信念を貫く強さである。
Written by はた
2000.3.17
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