odoru.org

裸の女

だんだん暑くなってきた。
暑くなると頭の中のどこかの線が切れることが多いようで、中央線の警備員を多くしても電車に飛び込みたくなる人は後を絶たない。
日本一ダイヤの乱れが激しい路線で、少しでもダイヤの乱れを抑えようと、3億円の費用を投じてわざわざ警備員を置いたのだ。
まぁそれこそ5mくらい先の人が飛び込もうとしてるのなら止めようもあるのだろうが、20mも先の人が飛び込もうものならいくら俊敏で勇猛果敢な警備員でも役には立たないはずで。 警備員がいたって飛び込みたい人は飛び込むし、飛び込みたくない人だって落ちるかもしれない。 あの中央線のホームを見れば、落ちない方が不思議なくらいだ。
まぁ警備員の配置が無駄だとは思わないが、これで飛び込みがなくなるのかと言われれば疑問符をつけざるを得ない。
そもそも中央線は列車や架線の事故が多すぎるので、飛び込みがなくなったって列車の遅延は起こるのだ。
駅より多い数の電車をいっぺんに無理矢理走らせていることに問題があるのだ。

まぁこれだけ書いたが、今の私は中央線なんて一切使っていないので、おおよそ関係のない話ではある。

小学校時代、M田君という仲のいい友達がいた。
残念ながら遠くへ引っ越してしまったのでその後の行方もしれなくなったが、その彼が話してくれたある出来事がある。
話が強烈なのでしっかりと脳裏に焼き付いており、こういう暑い季節になってくると必ず思い出す。

その暑い夜、彼は電車でひとつ行った駅近くの塾からの帰りだった。
先生に質問などしていたため、いつもより遅くなってしまった。 遅くなったと言っても21時前後だと思うが、田舎なのでそんな時間にはすでに街に人通りはない。
電柱にぶらさがっている薄暗い街灯を頼りに彼は家路を急いでいた。
家の数と呼応して街灯の数もまばらになってきてますます薄暗くなったところで、20mくらい先に白っぽいぼんやりとした固まりを見つけた。
最初はゴミ袋か何かだと思ったので気にせずにその道を歩いていく。
すると突然そのゴミ袋がすっくと立ち上がりこっちに向かって歩いてくるではないか。

ゴミ袋と彼との間に、かろうじて一本電灯があった。
ゴミ袋も彼もだんだん電灯に向かって歩いていたので、徐々に明るくなってきた。
そして彼は、ゴミ袋だと思っていたのが一糸まとわぬ姿の女性だということに気がつくのである。
そんなときの男というのは、老いも若きも(多分)足下から見る。というか、恥ずかしさのあまり正面から視線を外すとまず足下になるのだ。
徐々に足下から上に上がっていく。そして、当時の我々では決して見ることの出来ない部分を目にするのだ。フサフサだったという。
彼の人生において突然すぎるが、思春期が訪れた。

彼が言うには、それはそれは美しい身体だったという。
その頃、女性の裸なんて目にすることはなかったので、なにと比べて美しいのかは不明だ。 ただ、彼の10歳の身体は、興奮していた。
そのいやらしい視線がふくよかな胸を通り越す。赤い乳房を確認する。 とうとう彼のドキドキとある種の感情は絶頂に達し、それと同時に二人の最接近となる。
視線が首筋を通って、顔に達した瞬間、彼の思春期はまたまた突然終わりを告げる。

その女性は、顔面蒼白、眼は真っ赤に血走り口は半開き。よだれも出ていたと言っているが、その直後には恐怖のあまり無我夢中で駆け出した彼にそこまで確認する余裕があったかどうかは謎である。
そのあと、女性がどうなったかは誰も知らない。女性の身内はどうなったか知っているかもしれないが。

ただ、あまりに暑かったので裸で涼んでいたちょっと血色の悪い寝不足の女性なだけかもしれない。そんな素敵な人がこの世にいるとも思えないが。
彼は20歳くらいの女性だったと言うが、本当は十分にとうのたった女性かもしれない。薄暗くて年齢まで確認出来たか当てにならないからだ。
少なくとも、暑すぎるとこんなこともあるよ、と教訓めいたものを幼い私たちに植え付けたくれたことだけは間違いない。

次の日学校でその話を聞いたとき、彼は「おんなってこえぇ!(恐い)」と叫んでいた。
その話を聞いた周りの男たちはみんな一様に羨ましがっていた。
M田くんは、それ以来しばらく女の子に近づかなくなった。

その後M田君は女性恐怖症になった。
かと思いきや、中学2年で誰よりも早く経験を済ませることになるのである。
それも、同じクラスの女の子のバージンを6000円で買って。
(そんなことがあったから、本名が出せなかった。もう時効かもしれないが。)
Written by かず
1998.5.7-1999.6.4
Copyright © 1999-2004 踊る大捜査線FANSITE, All Rights Reserved.