冬の香り
いや、誰かが何とか言えば何かに変わるかもしれないが、誰も私に向かって「おでんじゃねぇ。○○だぞ」と言い切れる勇気ある人がいないので、とりあえず冬はおでんだということにしておく。
友人のお好み焼き屋さんもあるので、とりあえずお好み焼きもありでも良い。しかしお好み焼きは何も冬じゃないといけないなどということはないので、やはりおでんの勝ちだ。
おでんに日本酒のゴールデンコンビに勝るものはいない。
こういう書き出しだときっと今日の晩御飯がおでんだったと思われることだろう。ひょっとすると「おいおい、おでん作ってもらって旨かった、とかのろけ話するんじゃねーだろーな」などと鋭い突っ込みを入れている方もいるかもしれない。
残念ながらそうではない。
正確にはちょっと前には作ってもらった。旨かった。のろけ話である。
いや、そういう話ではないのだ。独り突っ込みしながらやっとこさ枕から本題に入る。
春には桜の花の香り。夏には潮騒やさわやかな汗の、秋には焼き芋等に代表される食べ物の香りがある。四季折々の香りを楽しませてくれる日本に生まれてホントに良かった、と思うのだが、よくよく考えてみると冬の香りがない。
冬にはおでんだ、と言い切ってみても、ぐつぐつ煮込んだおでんでもそんなに香りはしない。そりゃ鍋の上に顔を出せば香り・・というかこの場合は匂い、はするだろう。だがしかし、例えば隣の家の晩御飯がおでんだということを確認するには某テレビ局(専門用語で「忘れた」と言う)の「突撃!となりの晩御飯!」あたりに突撃してもらうか、もしくは買い物帰りの隣の奥さんを捕まえて立ち話がてら買い物篭の中の大根やシラタキに目をやる、くらいしか方法はない。
おでんや鍋物でもその辺まで漂うような匂いはしないのだ。
果たして冬独特の香りは無い物か・・・。朝の冷たい空気の匂い・・・うーん、このくらいかな。
やっぱり冬って寂しいのね、そう思っていたら、先日隣の席の同僚に言われた。
「おまえ、冬の匂いがするよ」
おやおや、灯台下暗しとはこのことか。この私が冬の香りの漂うひとだったとは・・・。果たしてどんな素敵な香りなんだろうか。わくわく。
すると
「ストーブの匂いだ」
なんのことはない。先日部屋中にファンヒーター用の灯油をこぼして洪水を作ってしまった。その灯油の匂いがコートやスーツにつきまくっていたのだ。
ということで、冬の香りは灯油に決定。
ちなみに我が家は今でも玄関開けると嬉しいかな冬の匂いがこれでもかといわんばかりに迫ってくる。
春も恋しいが、それ以上に春のさわやかな香りが恋しい、そんな冬を送っている。
Written by かず
1997.1.23
1997.1.23