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室井さんの悩み

夏も本格的に始まり、絶えず蝉の鳴き声が聞こえる中、室井慎次警視は本気で悩んでいた。
その理由は、彼の机の上のいかにも高級品ですと言っているような白い厚紙の山である。
「なんだこれは」
怒った口調で室井が届けた婦警に聞いた。
「えっ、あの・・…見てのとおりの物で・…はい」
いきなり声をかけられた婦警は、おどおどしながら答えた。
「こんな物はいらん。捨ててくれたまえ」
「え、でも一度くらいお目を通しておいた方がよろしいのでは…?」
「……しかしだなぁ」
「あの、失礼します!」
ドタドダ バタン
怒られるとでも思ったのだろう。冷や汗を掻いて婦警は出て行った。
「行ってしまったか…しかしこのいやらしい山をどうしようか…」
室井は机の上の厚紙の山を見て言った。
はっきり言って室井はこういう物に全く持って興味がなかった。
しかし現状はどうだ。どうでもいい女から次々と来るこのうっとうしい厚紙は・…いっそ送ってきたものを、警視庁の入り口で燃やしてしまおうかと思ったこともあるほどだ。
「誰かどうにかしてくれ・…」
室井の独り言に答えるように、部屋のドアがノックされる。
「誰だ?」
「失礼しま〜〜す」
入ってきたのは、青島だった。室井は唖然として思わぬ来訪者に目を向けた。
「一体どうした?」
室井が聞くと、青島はこう答えた。
「いや、本店に届けなきゃいけない書類を届けたついでに寄ったんすよ」
「そうか・…」
室井はそう答えたが、青島の目が、厚紙の山に釘付けになっているのに気付いた。
「どうした?」
「いや・…もしかしたらその厚紙の山ってお見合い写真じゃないっすか?」
「そうだ。ったくこんなうっとうしいもの送ってこないでくれと思うんだが…」
「いや、でもすごいっすよ。警視庁長官の娘に政治家の娘・・・
お偉いさんばっかじゃないですか」
青島がお見合い写真を手にとりながら言った。
「俺は全く興味がないんでね。どうせ俺の地位とか、年収とかにしか興味がないんだろうからな…」
冷たくいいあしらう室井。
「そうっすか?」
「?」
「室井さんって、結構モテそうな気ィするんすけどなぁ」
「・・…」
「まぁ、この山の処理頑張ってくださいね」
「・…あぁ」
そういい残して青島は出て行った。
室井の意外な所を見てしまった青島は、所轄の皆にそのことを話し、次の日には、所轄全体にその話が行き渡り、しばらくの間、署内はその話で持ちきりだった。
Written by ヒカルさん
2003.07.21
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