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Christmas Snow

今日は朝から、とてもじゃないけど良いとは言えない天気が続いていた。
こんな日は、廊下に出るとすっごい肌寒い。
僕は廊下の窓ガラス越しに外を眺め、短く溜息をついた。
師走に入ってうちの署も慌しくなってきて、人の出入りも激しい。
・・・歳末が近付いてくると、何故か忙しくなってくんのよね・・・警察って・・・。
廊下の向こうの交通課もかなり忙しいらしく、内勤の森下くんも駆出されて窓口の対応におおわらわだった。
「ちょっと青島くん、何やってんのよ。」
すみれさんが窃盗の被疑者を確保してきたらしく、手錠を引っ張りながら僕の方へ歩み寄ってきた。一緒に行った武くんに、手錠ごと被疑者を渡して僕に向き直る。
「あ、お帰りぃ。」
僕は片手に灰皿を持ち、煙草を咥えながら笑顔で出迎えた。
「お帰りじゃないわよ。皆忙しいってのに何で青島くんだけが余裕で煙草なんか吸ってんのよ。」
「だって今休憩中だもん。」
「休憩ぇ?」
「被疑者取り調べ中に付き交代で休憩。朝から忙し過ぎて、少しくらい休憩取んないとやってらんないよ。」
僕は不機嫌に答えた。
「あ、そうなの。」
すみれさんは呆れた様に相槌を打って、又、質問を重ねた。
「で?誰と交代したの?」
「真下。」
「あ、そう・・・。って大丈夫なの?真下くん一人で。」
すみれさんの心配も至極最もな事だった。あいつはいまだに取調べが得意じゃない。
「あいつも新人じゃないんだから、大丈夫だろ、一人でも。」
彼女の問いに、僕は苦笑して答える。
外から帰ってきて身体が冷えきったすみれさんは、廊下での立ち話に耐えきれなくなったらしく、
「ああ寒いっ。あったかいコーヒー飲もうっと。」
と、手を擦り合わせて背を丸めながら、中に入って行った。
「お、青島、おめぇこんなとこでなにやってんだよ。」
和久さんがトイレから帰ってきたとこだったらしく、ハンカチで手を拭きながら僕に声を掛けてきた。
「いやちっとね、真下と交代で休憩をね。」
僕は、吸っていた煙草を灰皿で揉み消しながら答えた。
「いいのかよ、こんなとこで油売っててよぉ。」
「ダイジョブっすよ・・・。」
そう言い終えるか終えないかのうちに、誰かが僕にぶつかってきた。
「・・・っとにジャマだねぇもう・・・。あ、青島くん、君なにやってんのこんなとこで。サボってないで仕事してよ仕事ぉ!」
自分からぶつかってきておいて、署長は目を三角にして僕を怒りつけてきた。
「署長っ、急ぎませんとっ。」
副署長が泡を食った様に促す。
「ぁぁ、そうだねぇっ。」
「署長、こちらですこちら!」
「待ってよ秋山君!」
二人は慌しく交通課の中へ消えて行った。
「何すか?アレ。」
僕は二人の去った方を見ながら、傍らの和久さんに聞く。
「アレじゃねぇか?多分ほれ、もうすぐ交通事故死亡者数が一千人超えそうだとかってよぉ。毎年騒いでんじゃねぇか。」
「あそっか。」
そう言えば、以前署内をたらい回しにあった時、交通課長がそんな訓示してたの見た事あったっけ・・・。
「なんか今年早くないスか?そうなんの。」
「今のはただの俺の当てずっぽうだからよ、本当の事は判んねぇぞ。」
「ま、そっすよね。そんなに死なれちゃ困っちゃうし。」
僕はそう言いながら、又窓の外に視線を移した。
今日は天気がどんよりしているせいか、まだ4時なのに暗くなるのが早く、巷はもう色とりどりのネオンサインが、競う様に光り輝いている。
「そういやぁ、もうすぐクリスマスなんすねぇ。」
「俺みてぇなジジイにゃクリスマスも何も関係ねぇけどよ、そんなのを気にするあたりお前もまだ若えな。」
「だって俺まだ独身すよ。やっぱクリスマスくらいは恋人とあったかーく過ごしたいっすよ。一人身は寒くて。」
「じゃ、警官辞めるしかねぇな。」
「そんなぁ、和久さーん。」
僕の情けない声に、和久さんは短く笑い、
「青島、いつまでも油売ってないで仕事に戻れよ。」
と言って刑事課の中へ消えて行った。
僕はまだ廊下で、クリスマス仕様になった夜景に見入っていた。
「せんぱ〜い、いつまで休憩してんスかぁ。」
真下がヨロヨロしながら出てきた。
「おまっ・・・被疑者は?」
「ちょっと魚住係長代理に代わってもらいました。僕も休憩しないと、息詰まりそうで・・・。」
奴は、上半身を前後させ、深呼吸しながら答えた。
「お前持久力ないねぇ。今日1回しかやってないじゃない、取調べ。俺なんか何回やったと思ってんだよ。」
と言って僕は又、外に視線を走らせた。
「何見てんスか?」
真下がいぶかし気に、外と僕とを見比べる。
「・・・いや、なんかさ、夜景がクリスマス・ツリーみたいに綺麗だなって思って・・・。」
僕がそう言うと、奴は僕の額に手を当てた。
「何よこの手は。」
「先輩熱でも出たのかなって思って。」
真下は物珍しそうに僕を見て、
「どうしたんですか?先輩。先輩からそんなセンチな言葉が出てくるとは思ってもみませんでしたよ。」
と言った。
「悪かったね。俺だってね、たまには詩人の様に浸ってみたい時だってあんのよ。判る?この繊細な僕の心が。」
「・・・何言ってんだか・・・僕の方が繊細に決まってますよ・・・。」
奴はそう小声で言うと、
「じゃ先輩、もうホントに代わってくださいよ。」
と中に入って行った。
一人取り残された僕は、また外へ視線を走らせる。
「・・・今日も残業かな・・・。」
そう独り言を呟いて仕事に戻ろうとした時、視界の端に小さな白いものがちらちらと映った。
「・・・あ・・・雪だ・・・。」
今年は暖冬だってテレビで言ってたのに、朝から冷え込むって思ってたら・・・。
戻りかけたけど、少しの間僕は、空から舞い降りる白い天使達に見入っていた。
「せんぱーい!」
「青島ー!」
真下と和久さんが、同時に中から僕を呼ぶ。
「はあーい。」
僕は面倒臭そうに短く返事をしながら、実は、心はあったかいものに包まれていた。
それは白い天使達の贈り物だったのかもしれない・・・・。
・・・まだ早いけど、取り敢えずメリークリスマス・・・。
Written by はるりんさん
2000.12.11
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